今後、JR各社や他の鉄道会社の赤字が続いた場合、日本政府はどう対応するのか。政府系金融機関を通じて、資金繰りのための融資を行うことは可能だが、国が資本注入したり、救済したりするのは難しいだろう。
債務超過に陥って経営が立ち行かなくなった鉄道会社を自治体などと共に救済する可能性はあるが、それはあくまで経営が行き詰まってからの話だ。JR東日本の場合、巨額の利益準備金を保有しており、それを使い切ってからでないと、税金などを投入する大義名分が生じない。しかも、今年度ですら巨額赤字にもかかわらず、株主に配当する方針を打ち出している。税金を投入してそれが株主配当に使われるという形になることはあり得ない。欧州では政府が航空会社に資本支援をしているが、配当は無配とし、役員の報酬にも上限を設けている。
仮に政府がJR各社に値上げをさせないために、支援する場合、そうした外部流出を止めることに加えて、さらに民間企業としての競争を促すことが不可欠になる。日本の場合、まだまだJR各社が地域独占的な恩恵を享受している。新幹線が典型だが、諸外国では路線管理と運行業務を別会社にした「上下分離」方式が広がっており、イタリアや韓国などでも同じ路線の上を、別の会社の特急列車が走り、価格とサービスを競っている。
また、最近ではJR各社がグループで小売りや飲食、宿泊業などを手掛け、「駅ナカ」などで売り上げを大きく増やしている。鉄道事業への政府の支援が、こうしたグループでの事業を事実上支援することにもつながりかねず、他の競合する民間企業の事業を圧迫することになりかねない。
新型コロナを克服するまで、JR東日本などJR各社は、大幅なコスト削減など自助努力によって生き残る算段が不可欠になる。
磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間 大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP )、『2022年、「働き方」はこうなる 』(PHPビジネス新書)、共著に『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP )などがある。
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