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ブラック企業だけじゃない 「ワンオペ管理職激増」の深層働けど働けど報われない理由(1/5 ページ)

» 2019年03月07日 07時15分 公開
[熊野英生ITmedia]

編集部からのお知らせ:

本記事は、書籍『なぜ日本の会社は生産性が低いのか?(著・熊野英生、文藝春秋)』の中から一部抜粋し、転載したものです。


「ぼっち仕事」が企業の未来を奪う

 労働現場でワンオペが増えている。ワンオペとはワン・オペレーションの略で、1人仕事のことをいう。若い人は「ぼっち仕事」というかもしれない。

 ブラック企業の話ではない。実際、中高年サラリーマンのなかには、1人でプロジェクトを切り盛りしなければならない役職者が大勢いる。彼らには直属の部下は1人もいない。「劇団ひとり」ならぬ「チーム自分ひとり」なのだ。筆者自身もこの境遇に近い。

 筆者は、なぜ日本は生産性が低いのかについて調べる過程で、多くの業界・企業の人から話を聞いた。すると、自分と同じようなワンオペの人々が非常に多くいることを知った。彼らの肩書きは、部長、副部長、次長、部長代理など、上級管理職である。

 おそらくこうした構造変化が生じた原因は、会社の人員構造が高齢化したために若者が少なくなり、全体に占める中高年の割合が圧倒的に大きくなったことにあると考えられる。そのため、ワンオペの管理職が激増したのだろう。

phot 個人に責任を押し付ける風潮が強まっている(写真提供:ゲッティイメージズ)

 最近は、ここに新しい仲間が加わった。定年延長で残っている人たちである。彼らもまたワンオペが多い。会社には、役職定年というルールがある。55歳以上になると、役員になれなかった人は部長などの管理職を外れる。大人数のチームを何十年間も率いてきた人も、役職定年後はワンオペ仕事になる。サラリーマン人生は、新入社員で生まれて1人、そして終わるときも1人に戻る時代がやってきた。

 家族や友達は、あなたが役職者だと聞いて、十数人の部下がいるリーダーだと思い込んでいる。実際は、私もあなたもワンオペなのである。しかし、この事実を恥ずかしいなんて思う必要はない。なぜならば、組織の中であなたの役割は重要なのだから。それなりに業績にも貢献している。組織もかけがえのない人材だと認めている。単に、直属の部下がいないだけだ。ひとりぼっちの仕事を恥じることはまったくない。

 しかし本来、企業とは、大人数が協働することによって1人仕事よりも生産性を高めることを目的として作られたはずである。ここに大きな矛盾がある。

 心配すべきは、未来のことだ。あなたは誰も他人を育成していない。あなたが会社からいなくなると、あなたが果たしてきた重要な役割が世の中から完全に消滅する。後任者が異動して来ても、その人にあなたのノウハウを一子相伝で教えられるわけではない。その後任者もワンオペで仕事をしながら必要なことを自分ひとりで身につけるしかないのだ。

 つまり、組織における能力継承がうまくできないという、より深刻な問題もはらんでいるのだ。生産性を上げるために日々努力している人々のノウハウが、10年後、20年後に誰にも継承されないまま消滅していく。それらの損失こそ大問題である。

phot サラリーマン人生は新入社員で生まれて1人、そして終わるときも1人……(写真提供:ゲッティイメージズ)
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