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» 2019年03月07日 07時15分 公開

ブラック企業だけじゃない 「ワンオペ管理職激増」の深層働けど働けど報われない理由(4/5 ページ)

[熊野英生,ITmedia]

過去の成功体験が私たちを束縛する

 旧日本軍の失敗からは、それの逆を目指せばよいとの教訓が得られる。私たちが目指すべき戦略は、まず「物量重視」。次に決戦よりも「持久戦志向」。最後に「判断の柔軟性」。この3つである。これを現代の経営に焼きなおすと次のようになる。

(1)生産性を引き上げるために現場が予算を使い、投資ができること(物量重視)

(2)技術の優秀さよりも継続して儲(もう)ける型(フレーム)をつくること(持久戦志向)

(3)新しいテクノロジーを採用し、外部環境の変化に対応すること(判断の柔軟性)

 これに対して「予算を増やしても簡単に成功は得られない」という反論が予想される。じつはまったくその通りだ。新しい試みの失敗は、不可避である。また、人々は予算をうまく使う習慣が定着していないから、無駄も目立つだろう。それでも、生産性を上げるためには経営者は腹をくくって試行錯誤を続けるしかない。それしか選択はないからだ。

 また、(3)の判断の柔軟性を確保することも難しい。判断の柔軟性を高めるには、現場の情報をいち早く吸い上げ、技術の取捨選択を各部署に任せる分権的運営がよい。中央集権的に予算と権限を絞ると機動性も柔軟性も失われる。各部署の自由に任せることを阻んでいるものは、やはり成功体験であろう。ただ、その内容については少し詳しい説明を必要とする。

 「成功体験」と聞くと、かつては高度成長時代を連想する人が多かった。しかし、いまやデフレ時代を長く生き抜いた世代が中高年サラリーマンの中核である。彼らにとっての成功体験とは、長期のデフレやリーマンショックの危機の中で、経費節減や人材費抑制で企業の増益を確保したことだ。人員も予算も抑えて、損益分岐点(採算ライン)を低く保つ。いわば暴風雨の中、「守り」の戦略によって利益を捻出してきたことである。

 近年、批判の的になっている企業の「金あまり」は、その成功体験の副産物といえる。企業のバランスシートに巨大なキャッシュが積み上がるのは、企業のどこかに守銭奴がいるからではない。全員が節約を優先する習慣に過剰適応してしまっているからだ。過去の成功体験から、余剰資金を高い収益資産に投資する発想よりも、キャッシュフローをコツコツ増やすことに執着するのである。

 すでにリーマンショックは去り、12年頃から大企業も中小企業も平常モードに戻ってよい状態になった。それでも節約習慣から抜け出せていない。売上数量の伸びは00年代より鈍くても、経常利益率は以前より高く、増益する企業が増えている。景気がある程度よくなったのだから、本来ならば将来の収益拡大に向けて、予算をかけて実験的に新規事業へのチャレンジをすべきである。優秀な人材を選んで、新しいことを模索させるときである。ところが、ヒト・モノ・カネを三位一体で攻めに使う方向には向かいにくい。

 結局のところ、私たちは節約で利益を積み上げるという成功体験から抜けられない。こうした成功体験を個人レベルの努力によって捨て去ることは不可能に思える。皆が一度信じ込んだことを捨てるのは、理屈を超える困難さがある。

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