Webやクラウドのサービス、AI(人工知能)などの発達で徐々に存在意義を問われつつある資格業。士業の仕事の一部に見られる単純な事務手続きは、正確で大量の業務をこなせるWebサービスなどに少しずつ取って代わられつつある。そんな中、同様に「いつかそういったサービスが代替してしまうのでは」と業界の陰でささやかれている意外な職業がある。薬剤師だ。
現在、法改正で処方箋の要らない一般用医薬品はネット通販が可能になった。処方箋が必要な医療薬についてはネットでなく薬局で薬剤師からの購入が義務付けられている。ただ、調剤薬局大手の日本調剤が8月、福岡市の一部の薬局でオンラインでの服薬指導の認可を得たと発表。薬局に出向く手間や処方を待つ時間が生じる対面販売はどうしても患者におっくうがられる面があり、オンライン化の流れが少しずつ来ているといえる。
一方で、上記の日本調剤には1000人以上の“お得意様”の患者を抱える女性薬剤師がいる。東京の閑静な住宅街にある調剤薬局で、子育てしながら地域の患者に直に接してきた彼女のあだ名は「レジェンド」。一流の営業マンや接客業のプロにも通じる顧客との真摯な向き合い方を聞いた。
紀平陽子さんは日本調剤のすみれ中央薬局(東京都世田谷区)に勤める薬剤師。最初から薬局勤務だったわけではなく、大学で資格を取った後は大阪にある製薬会社の研究所で働いていた。結婚を機に退職し3人の子どもを育てていたが、徐々に育児の負担が減ってきたため、患者としてお世話になっていたこの薬局でパートとして働くように。今は勤続8年目で正社員にも昇格した。
紀平さんは2017年、日本調剤の薬局で患者に接する薬剤師や事務員などを表彰する制度で、50の薬局を抱える東京第一支店エリアのトップに選ばれた。「投薬において詳しい説明だけでなく一歩踏み込んだ患者のケアを心掛けている」などが理由だ。
それもそのはず、紀平さんは1000人以上の患者が「かかりつけ」として指名し、社内では「かかりつけのレジェンド」と尊敬される薬剤師。必ずしも頻繁に薬局に通う患者だけではないが、一般的な薬剤師が100〜200人しか専属の患者を持たないのに対し、圧倒的な人気を誇る。
ここで言う「かかりつけ」とは、2016年4月から厚生労働省の指導に基づき導入された「かかりつけ薬剤師」のこと。特定の薬剤師が患者の担当になり、薬について相談を受けたり指導して総合的にサポートする。休日や夜間など薬局が開いていない時間でも、電話で服薬の相談を受け付けるなどまさに患者にとっての“お抱え薬剤師”。患者側が自発的に指名して書類に記入しないとかかりつけ薬剤師として登録されない。
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