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「コロナ倒産」の連鎖が始まる――「雇い止め多発」の中小、2159万人の非正規を守れ磯山友幸の「滅びる企業 生き残る企業」(1/3 ページ)

» 2020年04月14日 05時15分 公開
[磯山友幸ITmedia]

 コロナウイルスの蔓延(まんえん)で日本の多くの企業が大打撃を受け始めた。国境を越えての移動がほとんどストップしたことで、日本航空(JAL)やANAホールディングス(ANA)など航空会社の利用客が激減しているほか、新幹線を運行するJR各社も乗車率が、過去に経験のないほどの落ち込みになっている。

 また、非常事態宣言の発出などで営業自粛を求められた百貨店やスポーツジムのほか、客足が激減している飲食店など、売り上げが「消滅」しているところも少なくない。国は新たな助成金の導入などで支援に乗り出しているが、規模・スピード共に不十分で、今後、企業の破綻が相次ぐ可能性が日に日に高まっている。

 航空会社の減便は国内線にも及んでいる。ANAは4月9日、翌10日から19日までの国内線のうち、49%に当たる56路線1523便を減便すると発表した。4月7日に政府が非常事態宣言を出したことで、予約が大幅に減少したことを受けた。航空券が乗車券を手数料無しに払い戻しており、業績への影響は計り知れない。

photo 日本航空(JAL)やANAホールディングス(ANA)など航空会社の利用客が激減している(写真提供:ロイター)

 JR西日本は4月10日、新型コロナウイルスによる政府の「緊急事態宣言」が発効した後の4月8、9日の2日間でみると、山陽新幹線と在来線特急の乗車率がいずれも前年同期の17%に落ち込んだと発表した。長谷川一明社長は記者会見で「経験したことのない厳しい経営環境」だと語ったと報じられた。

 こうした交通インフラ企業の場合、人件費や資材費などの固定費が大きい。売り上げの激減で、いわゆる損益分岐点を下回ると、巨額の赤字が出る。欧米企業のように一時帰休や解雇によって人件費をカットできれば、固定費を早期に削減することは可能だが、長期雇用を前提とした日本企業では簡単には人員整理はできない。

 もっとも、そうやって人員を削減してしまえば、新型コロナの蔓延が終息した後も、旧来の事業規模に戻すことは難しくなる。経済を支えるインフラとして、人員削減や事業規模の縮小はできないのだ。つまり、赤字を出しても耐え忍ぶほかに術がない、ということになる。

 日本企業の場合、比較的手厚い内部留保を保有している。この連載の1回目でも触れたが、2018年度の日本企業(金融業・保険業を除く全産業)の利益剰余金、いわゆる内部留保総額は463兆円に達する。2008年度以降増え続け、ここ7年連続で過去最高額を更新してきた。

 日本企業の内部留保が増え続けてきたことについては政治家や投資家などから批判が浴びせられ続けてきたが、今こそこれを取り崩して、雇用の確保などに取り組み、耐え忍ぶべきだろう。

 ANAの四半期報告書によると、2019年12月末現在の連結ベースの剰余金は6096億円。2018年度1年間の従業員給与と賞与の合計額はざっと400億円だから、計算上は耐えられるだけの体力はありそうだ。JALも昨年末で8400億円の利益剰余金を持つ。

photo ANAは2019年12月末現在、連結ベースの剰余金が6096億円(四半期報告書より)

 米国ではドナルド・トランプ大統領が企業救済を盛り込んだ緊急の経済対策を打ち出し、数週間で議会を通過させて3月27日に署名、法律が発効した。

 総額2兆2000億円(約230兆円)。全国民に対して、大人1人1200ドル、子ども1人500ドルを給付するというのが柱で、4月中には給付される見込みだ。これには5000億ドル規模の企業救済資金も含まれており、航空会社など大打撃を受けているインフラ企業が対象として想定されている。

 トランプ大統領が当初、救済案をぶち上げた時には、大企業救済に否定的な声も議会にはあったが、その後の感染拡大が進んだことから議会も協力姿勢を取った。

 日本でも緊急事態宣言が出された4月7日に、経済対策が閣議決定された。1世帯あたり30万円を給付するという内容だが、所得の大幅な減少などが要件になっている。やはり売り上げが大きく減った中小企業に最大200万円、個人事業に最大100万円の給付を行う制度が新設されたほか、東京都も独自に営業自粛要請に協力した店舗に50万円を支給することを決めた。もっとも大企業に対しては政府金融機関による融資枠の拡大などにとどまっている。

photo トランプ大統領は総額2兆2000億円(約230兆円)の経済対策を打ち出した
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