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» 2019年12月04日 05時00分 公開

マシリトが行く!【前編】:『ジャンプ』伝説の編集長が、『ドラゴンボール』のゲーム化で断ち切った「クソゲーを生む悪循環」 (1/5)

『ドラゴンボール』の担当編集者だったマシリトはかつて、同作のビデオゲームを開発していたバンダイのプロデューサーに対して、数億円の予算を投じたそのゲーム開発をいったん中止させるという、強烈なダメ出しをした。ゲーム会社と原作元の間にはどのような考え方の違いがあったのか。「クソゲーを生む悪循環」をいかにして断ち切ったのか?

[伊藤誠之介,ITmedia]

 2019年9月26日にUnite Tokyo 2019運営事務局主催の「Unite Tokyo 2019」がグランドニッコー東京で開催された。ここではその中のセッション「出版社とゲーム会社はなぜすれ違う? ドラゴンボールのゲーム化で酷(ひど)い目にあった…もとい勉強させて頂いた話」の模様をお届けする。

 「Unite Tokyo 2019」は、スマホアプリから家庭用ゲームまで、さまざまなアプリケーションソフトの基幹となるゲームエンジン「Unity」のユーザーに向けた、国内最大のカンファレンスイベントだ。基本的には、ゲームなどのソフトウェアを開発する技術者のための講演や会合が中心となっているが、その中には一般の人々でも楽しめる内容の講演も用意されている。今回取材したセッションもその1つだ。

 この講演の主役は、『週刊少年ジャンプ』伝説の編集者「Dr.マシリト」として本メディアでも取り上げている白泉社会長の鳥嶋和彦氏である。鳥山明氏の超人気マンガ『DRAGON BALL(ドラゴンボール)』の担当編集者だった鳥嶋氏はかつて、同作のビデオゲームを開発していたバンダイ(現・バンダイナムコエンターテインメント)のプロデューサーに対して、数億円の予算を投じたそのゲーム開発をいったん中止させるという、強烈なダメ出しをしたという。

 それはいったいなぜなのか。そしてそのとき、ゲーム会社と原作元の間にはどのような考え方の違いがあったのか。この講演は、そうした点について当事者たちが改めて振り返るという企画だ。

 当日は、ダメ出しを行った張本人である鳥嶋氏に加えて、ダメ出しを「された側」であるバンダイナムコエンターテインメント取締役の内山大輔氏と、バンダイナムコホールディングスIP戦略本部アドバイザーの鵜之澤伸氏が登壇した。内山氏は「ドラゴンボールZ1〜Z3」に加え「.hack」や「ナルティメットヒーロー」など、大ヒットゲームをプロデュースし、鵜之澤伸氏はTVアニメ『機動警察パトレイバー』のプロデュースを手掛け、バンダイナムコゲームスの社長を務めていたことで知られている。

 司会進行は、ゲーム情報サイト「電ファミニコゲーマー」を運営している株式会社マレ社長の平信一氏が務めた。

 講演の内容を前編と中編の2回に分けて報じ、講演後に登壇者に取材してより詳しく話を聞いた模様は後編でお届けする。あわせてお読みいただきたい。

 これは単なるゲーム開発の事例ではない。他社の製品やクリエイティブを扱う際にどのような姿勢が必要なのか。ビジネス上のさまざまなやりとりをするにあたって、どういった点に気を配るべきなのか。われわれが日常行っているビジネスの現場でも、直面する可能性の高いエピソードだと言えるだろう。

phot 鳥嶋和彦(とりしま・かずひこ)白泉社代表取締役会長。1976年に集英社へ入社後、『週刊少年ジャンプ』編集部に配属される。編集者として鳥山明、桂正和に代表される多くの漫画家を育成。『ジャンプ放送局』や『ファミコン神拳』といった企画ページも担当し、93年には『Vジャンプ』を立ち上げた。原稿を容赦なくボツにする“鬼編集者”としても有名で、『Dr.スランプ』のDr.マシリト、『とっても!ラッキーマン』のトリシマンなど、ジャンプ連載作品に登場するキャラクターのモデルにもしばしばなっている(撮影:山本宏樹)
phot 鵜之澤 伸(うのざわ・しん)バンダイナムコホールディングスIP戦略本部 アドバイザー。バンダイナムコゲームス(現バンダイナムコエンターテインメント)元社長。1981年にバンダイに入社し、ホビー部で「ガンプラ」や「ザブングル」といった玩具の営業・企画に関わった。83年からはフロンティア事業部で映画やアニメのプロデュースを開始。以降、『機動警察パトレイバー』(TVシリーズ、OVA)など多数の作品をプロデュースする
phot 内山 大輔(うちやま・だいすけ)バンダイナムコエンターテインメント取締役。CE事業部事業部長。コンシューマゲームのプロデューサーとして、「ドラゴンボール」や「NARUTO −ナルト−」などといったキャラクターゲームほか、さまざまなゲームに参画。過去には、「.hack」シリーズの初代担当プロデューサーとして、クロスメディア・プロジェクトも立ち上げた。現在は、同社のコンシューマ事業の責任者として、事業全体を統括している

「クソゲー」が生まれる背景にあった納期の問題と“やっちゃいけない伝説”

平氏: まず本論に入る前に、『ドラゴンボール』とゲームの歴史から、話を広げていければと思います。

 これは5ページぐらいにわたる年表なんですけど、1984年に『ドラゴンボール』の連載が『週刊少年ジャンプ』で開始されて、翌々年の86年にTVアニメが始まります。それに合わせて、ゲームもすぐファミコンで展開されている。そこから『ドラゴンボール』とゲームというものが、いかに密接に展開されてきているかというのが、この年表を見ていくと一目瞭然です。それで『ドラゴンボール』のゲーム化についてはほぼ、バンダイさんとバンダイナムコさんが手掛けている。それぐらい浅からぬ仲だろうと思います。

phot 当日使用されたスライド写真・年表「ドラゴンボールとバンダイ(ナムコ)の関係年(1)」(以下マレ提供)

 そこで鳥嶋さんにはまず、『ドラゴンボール』がゲーム化されたときのいきさつをお聞きしたいと思います。

鳥嶋氏: 『ドラゴンボール』のアニメが始まりまして、じつは(前番組である)『Dr.スランプ』の後半は、バンダイさんじゃなくてエポック(東京都台東区)さんがスポンサーだったんですが、『ドラゴンボール』からバンダイさんがつきまして。連載も絶好調、アニメも絶好調で、当時はファミコンがブームでしたから、ファミコンの1本目(『ドラゴンボール 神龍の謎』)がバンダイさんから出まして。150万本ぐらい出たんですかね。担当が今、スクウェア・エニックスにいる橋本真司【※】さんで。それで「2本目もやりたい」と橋本さんが言いにきたんですね。

 ところが、橋本さんが2本目の話を言いにくる直前に、広告代理店のほうから「バンダイが(アニメの)スポンサーを降りると言っている」という話がありまして。だから僕は、橋本さんが「2本目を出したい」と言ったときに、すぐ断りました。「バンダイからは出せないよ」と。「なぜですか?」と聞くから、「スポンサーを降りるんでしょ」と。スポンサーの会社にしか、マーチャンダイジングの優先権はありませんからと伝えると、彼が青ざめて帰りまして、1週間後にバンダイがアニメのスポンサーに戻って2本目(『ドラゴンボール 大魔王復活』)が出たという、そういう歴史です(笑)。

※橋本真司 ファミコンブームの当時、バンダイの社員であった同氏は「橋本名人」として、雑誌やTVでバンダイのゲームをアピールする仕事をしていた。後にスクウェアに入社して、『ファイナルファンタジー』シリーズや『フロントミッション』シリーズなどでプロデューサーを担当。現在はスクウェア・エニックスの専務取締役を務めている

内山氏: その時代は、鵜之澤さんは知らないんですか? 

鵜之澤氏: 僕がゲームを担当したのは1999年からなんで、その前の“闇の時代”は知らないですね(笑)。そのころの担当者は、もう誰も会社には残っていないんじゃないかな。さっき名前の出た橋本真司君が一生懸命がんばっていて。今はスクウェア・エニックスの専務になっている彼が、そのころに活躍してやっていたんです。

 やっぱりスポンサーをやらないと。よく「バンダイはなんでそんなに商品化の権利を持っているんですか?」と聞かれるんですけど、それはTV番組のスポンサーをやっているからなんです。TVアニメを放送しているときに、月額で3000万円とか5000万円とかを、1年間や2年間にわたって支払っていますから。しかもシリーズが続いている限りは止められないので、人気のある作品だったら20年間ずっとスポンサーをやったりしている。その代わりとして、ゲーム化権や玩具化のライセンスをいただけるという。

 ただ、これって契約書はないんですけどね。例えば集英社とバンダイナムコの間に、「『ドラゴンボール』のゲームを○○年までやっていい」という契約書なんかないんです。謎ですね(笑)。

鳥嶋氏: 今、鵜之澤さんが言ったように、契約書も、今の出版社には必ずあるライツという部署も、当時はなくて。僕がいろんなことを先輩や会社に聞いても分からないので、周りにいろいろ聞いたりしながら、僕が全部決裁していく。当時の僕は20代後半ですけど、そういう人間が全部やってたんです。さすがに編集長に「いいですね?」とは言いますけど。今思えば、プリミティブで乱暴な時代ですね。

phot 会場は文字通りの「満員御礼」だった
phot 聴衆は「ビッグ3」の鼎談に聞き入っていた
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