働く人の給与が一向に増えない。一方で、消費者物価はジワジワと上昇しており、いわゆる「実質賃金」はむしろ減少傾向が鮮明になってきた。未曾有の人手不足だと言われる中で、なぜ人々の給与が増えないのか。あるいは、増えたという実感に乏しいのか。
厚生労働省が9月20日に発表した「毎月勤労統計調査(確報)」によると、7月の「実質賃金」は前年比1.7%減少と、前年同月を7カ月連続で下回った。名目賃金に当たる「現金給与総額」も37万4609円と前年同月を1.0%下回り2カ月ぶりにマイナスに転じた。9月8日に発表された8月の統計の速報値でも、実質賃金は8カ月連続でマイナスとなり、現金給与総額も2カ月連続で減少した。
この調査は2019年の初めに発覚した「不正統計」で大きな問題になったもので、統計対象企業の入れ替えなどの影響が大きい。自民党の総裁選挙を前にした18年8月に発表された同年6月分の賃金上昇率が3.3%増(速報値では3.6%増)と公表され、新聞各紙が「21年ぶりの高い伸び率」と報じていたが、結局、対象の入れ替えの影響が大きく、実際には1.3%増だったことが明らかになっている。
その後、政府は、過去からの時系列の変化を見るには統計数字は不適切だとして、集計対象を共通の事業所だけにした「参考値」を公表してきた。何とか、給与が増えているということを数字で示したかったのだろう。その「共通事業所」の現金給与総額は、政府が数字を公表した17年8月以降、ずっとプラスが続いてきたのだが、ついに7月には、このデータでも0.9%減とマイナスになった。
どうやら給与は増えるどころか、減少し始めていることが統計数字のあちらこちらで鮮明になってきたのだ。
安倍晋三首相は12年末の第2次安倍内閣発足以来、「経済の好循環」を繰り返し主張し、円安で過去最高の利益を上げている企業から、「給与増」の形で、従業員などへの恩恵が行くことを求めてきた。「禁じ手」と言われながらも、春闘に向けて経済界のトップらに毎年「賃上げ」を要請し、19年春の春闘まで6年連続でのベースアップを実現させた。18年の春闘では安倍首相が「3%以上の賃上げ」と具体的な目標数値まで示した。
だが、こうした春闘で賃上げが決まるのは主として大企業だけだ。世の中の大半を占める中小企業の賃金はなかなか上がらない。多くの国民は所得が増えたという実感が乏しいと語る。
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