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日本人の賃金が増えない根本理由 「内部留保優先の経営」から脱却せよ【新連載】磯山友幸の「滅びる企業 生き残る企業」(2/4 ページ)

» 2019年10月09日 08時00分 公開
[磯山友幸ITmedia]

増え続ける「内部留保」

 大企業にしても儲(もう)かった分に見合った賃上げをしているとは言い難い。

 というのも、企業が社内に溜め込んだ「内部留保」の増加が止まらないのだ。

 財務省が9月2日に発表した法人企業統計によると、18年度の金融業・保険業を除く全産業の「利益剰余金」、いわゆる内部留保は463兆1308億円と、前の年度に比べて3.7%増えた。企業が上げた利益のうち、配当などに回されず、会社内に蓄えられたもので、08年度以降毎年増え続け、7年連続で過去最大となった。

 全産業の経常利益が83兆9177億円と0.4%増に留(とど)まったこともあり、剰余金の伸び率は17年度の9.9%増に比べて小さくなったが、3.7%という増加率は利益の増加率0.4%を大きく上回っており、内部留保優先の経営が続いていることを物語っている。内部留保の463兆円は経常利益(83億円)で言えば、5年半分である。

 では、一方で、どれぐらい企業は「人件費」を増やしたのだろうか。

 法人企業統計で見ると、同年度に企業が生み出した「付加価値額」は314兆4822億円。前の年度に比べて0.9%の増加に留まった。一方で、「人件費」の総額は1.0%増の208兆6088億円で、辛(かろ)うじて付加価値の伸び率を上回った。とはいえ、17年度の人件費の伸び率は16年度に比べて2.3%増えていたのだが、18年度の人件費の増加率は1.0%である。安倍首相が言っていた「3%の賃上げ」には程遠い。この伸び率では、物価が少し上昇すれば、実質賃金はマイナスになってしまう。それが統計数字として現れてマイナス続きになっていると言ってもいいだろう。

 18年度に限って言えば、企業が生み出した付加価値の伸びと同率の伸びを人件費でも実現したことになる。だが、巨額に積み上がった内部留保という過去の蓄積を取り崩したのかと言えば、全くそうではない。前述の通り、むしろ、過去最大に積み上がっているのである。

 企業が生み出した付加価値のうち、どれぐらいを人件費に回したか、を見る指標がある。「労働分配率」といって、付加価値に占める人件費の割合を見たものだ。法人企業統計の年度数値は財務省が毎年9月に発表するので、担当の麻生太郎副総理兼財務相は毎回、記者から質問を受けてきた。昨年、2017年度の時は数値上「人件費」は増えているが、「労働分配率は下がっている」と噛(か)みついていた。法人税率を引き下げることになった際も、それで浮いた企業の利益が内部留保に回るなら意味がない、と苦言を呈していた。

photo 財務省が発表した法人企業統計によると、2018年度に企業が生み出した「付加価値額」は314兆4822億円だった(財務省のWebサイトより)

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