「GoTo東京除外」でハシゴ外されたJAL、ANA 大手の破綻相次ぐ航空業界の悲鳴磯山友幸の「滅びる企業 生き残る企業」(1/3 ページ)

» 2020年07月22日 15時00分 公開
[磯山友幸ITmedia]

 世界で経営が行き詰まる航空会社が相次いでいる。新型コロナウイルスが蔓延(まんえん)した影響で航空旅客が激減。運行便を大幅に減便せざるを得なくなるなど深刻な打撃を受けている。また、新型コロナが収束するメドが立たないことから、大幅な人員削減に乗り出すなど、経営規模の縮小に着手し始めた。

 欧州の航空大手「ルフトハンザ」や、「エールフランスKLM」はすでに政府が資本注入するなど救済に乗り出すことで合意。一方で、タイの航空大手「タイ国際航空」やメキシコの航空大手「アエロメヒコ」、ブラジルの航空最大手「LATAM航空グループ」のブラジル部門なども法的整理を申請。事業は継続しながら経営再建を目指す。

phot 日本航空も全日空も、大幅な減便が続いている。飛んでいてもほとんど旅客がいないという状況が続く(写真提供:ロイター)

独政府はルフトハンザに1兆円支援

 ルフトハンザはドイツ政府との間で、90億ユーロ(約1兆円)にのぼる救済策で合意、6月末に開いた臨時株主総会でも承認された。政府による救済に難色を示していた個人大株主が土壇場で救済策に合意したため、法的整理を免れた。ルフトハンザは最悪時には定期便の95%が運休に追い込まれ、ドイツ政府と支援策の協議を続けていた。

 救済にはドイツ政府が4月に作った企業救済のためのファンド「WSF(経済安定化基金)」が使われる。WSFは政府系金融機関のKfW(ドイツ復興金融公庫)や主要大企業が出資、資産規模は1000億ユーロ(約12兆円)にのぼる。このWSFがルフトハンザの議決権の20%に相当する普通株を3億ユーロ(約360億円)で取得。さらに買収の標的になった場合に備え、重要議案への拒否が可能となる25%プラス1株まで保有株比率を引き上げることができるオプションを持った。

 また、WSFが、ドイツ特有の議決権のない資本参加方式で57億ユーロの資本注入を行う。この資本注入とは別に、KfWや民間銀行から返済期限3年の融資を30億ユーロ(約3600億円)受けることでも合意。総額90億ドルにのぼる大型救済策となった。

 WSFは議決権株については2023年末までに売却するとしている。また 政府系への無議決権出資の返済が終わるまでの間、株主への配当は停止されるほか、経営幹部の報酬についても制限される。無議決権出資に対する利息(配当)の支払いが滞った場合にも前述のオプションを行使できることになっており、政府がさらに経営関与をする道を残している。

 フランスの航空大手「エールフランス」とオランダの「KLMオランダ航空」の持ち株会社である「エールフランスKLM」も政府との間で救済策を模索してきた。4月末にはフランス政府との間で合意、総額70億ユーロ(約8400億円)の資金を調達した。

 筆頭株主であるフランス政府からの直接融資は、30億ユーロ(3600億円)で、期間4年だが、さらに1年間の延長が2回できるオプションが付いている。また、クレディ・アグリコルCIBなど銀行9行によるシンジケート・ローン(協調融資)を40億ユーロ(4800億円)調達。融資額の90%についてはフランス政府が保証を付けた。こちらは償還期間は1年だが、さらに1年間の延長が2回可能なオプションが付いている。

 また、6月末になってオランダ政府との間でも救済策に合意。傘下のKLMオランダ航空が34億ユーロ(4080億円)にのぼる資金を調達した。10億ユーロについてはオランダ政府の直接融資、24億ユーロは11行から借り入れるが、やはりこれもオランダ政府が90%を保証する。

 この支援策合意にあたって、エールフランスKLMのベンジャミン・スミスCEO(最高経営責任者)は現地紙とのインタビューで、運航便数は21年末までに80%超に回復すると述べているが、実際にどれぐらい回復するかは未知数。世界での感染拡大が続いている中で、旅客需要の早期回復は望めないという声も根強い。

phot エールフランスKLMのベンジャミン・スミスCEO(Wikipediaより)
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