「30年この方、予算を使うことしかやって来なかったのに、稼げというのは無理ですよ」
昨年、霞が関を退官した幹部官僚はこう言って笑う。しかし、退官した彼にはあっという間に多くの企業から声がかかった。今は著名企業の「顧問」や「アドバイザー」など複数の名刺を持つ。それぞれ1社あたりの報酬は多くはないが、合算すれば現役時代と遜色ない。政府とつながりの強いひとつの企業からは社用車と秘書が付いた。退官して時間がたち、「天下り」と指弾されなくなる頃には、上場企業の社外取締役の話が用意されるはずだ。
役所は再就職先を斡旋できない建て前なので、自分で探したことになっている。自ら、稼ぐことは無理と言っている官僚OBに、民間企業は何を期待してポストを当てがうのだろうか。
2019年12月27日。日本郵政グループ3社の社長がそろって記者会見に臨んだ。かんぽ生命における保険の不正販売の責任を取り、日本郵政の長門正貢社長、保険の販売を担う日本郵便の横山邦男社長、かんぽ生命の植平光彦社長が1月5日付けで辞任することを発表したのだ。3人はいずれも金融機関の経営トップを務めた民間出身者だったが、後任にはいずれも元官僚が就任することになった。
グループを束ねる日本郵政の社長には旧建設省(現国土交通省)出身で元総務大臣の増田寛也氏が就任。日本郵便の社長には、旧郵政省出身の衣川和秀専務執行役が、かんぽ生命の社長には同じく旧郵政省出身の千田哲也副社長が就任した。
この人事は、郵政民営化の流れの中で、大きな意味を持つ。国営だった郵政事業は「民営化」の方針の下、01年に郵便事業庁となり、03年には日本郵政公社となった。小泉純一郎内閣による「郵政改革」によって、07年には日本郵政グループが発足。三井住友銀行の元頭取だった西川善文氏を社長に据えた。ちなみにこの時の総務大臣が増田氏だった。
09年に民主党政権が誕生、郵政民営化に反対だった亀井静香氏が金融担当大臣兼郵政改革担当大臣に就任すると、郵政改革は大きく後退。西川氏を退任させ、後任の社長には大蔵省(現財務省)事務次官の斎藤次郎氏を据えた。こうした流れを、元大蔵官僚の高橋洋一・嘉悦大学教授は「郵政の再国有化」だったと指摘している。
12年末に安倍晋三内閣になると、社長ポストは再び民間出身者に移った。東芝の社長会長などを務めた西室泰三氏が13年に就任。16年には体調が悪化した西室氏に代わって今回辞任した長門氏が社長に就いた。長門氏はシティバンク銀行の会長から日本郵政傘下のゆうちょ銀行社長となり、日本郵政社長へと「昇進」した。
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