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「天下りの弊害」噴出の日本郵政 日本型“民間”企業で遠のく「真の民営化」磯山友幸の「滅びる企業 生き残る企業」(3/3 ページ)

» 2020年01月16日 05時00分 公開
[磯山友幸ITmedia]
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「NHKはまるで暴力団」と言い放った鈴木氏の末路

 ちなみに、辞任した鈴木副社長は、NHKによるかんぽの不正販売を巡る取材報道を恫喝(どうかつ)し「NHKはまるで暴力団」と言い放った人物だ。経営委員会が上田良一会長を厳重注意する事態に至った背景には、総務省次官OBの抗議にNHKが震えあがったことがあるのだろう。言うまでもなく総務省は放送局に免許を与えている所管官庁である。

 鈴木副社長の社長昇格があと一歩でとん挫した背景に「政治の力」を見る識者もいる。菅官房長官が自身に近い増田氏を社長に据えた狙いはどこにあるのか。日本郵政発足時に総務大臣を務め、13年からは郵政民営化の進捗状況を検証する政府の「郵政民営化委員会」の委員長も務めてきた増田氏。産経新聞は「日本郵政次期社長の増田元総務相 官邸主導で起用も経営手腕未知数」と見出しを立てた。

 郵便や小包、郵便貯金など郵政事業はもともと国営で行われてきた。欧米ではとうの昔に民営化が完了し、純粋な民間金融機関や物流会社に生まれ変わっている。あるいは、民間会社に買収されたところもある。

 日本で「郵政民営化」の動きが始まって20年の時が流れた。ところが、今でも日本郵政の株式は国(名義は財務大臣)が63.29%を持ち、その日本郵政がかんぽ生命株の64.48%、ゆうちょ銀行株の88.99%を保有する。日本郵便は日本郵政の100%子会社だ。民営化と言いながら、まだ日本郵政は国の「子会社」、ゆうちょ銀行、かんぽ生命、日本郵便は国の「孫会社」なのである。

 宅配や保険、銀行といった民間でもできる事業をなぜ国が丸抱えでやる必要があるのか。「公共の利益」を建て前に、過疎地の郵便局網を維持するために国の資金が投じられ、民間に流れるべき資金が準公的部門に滞留する。経営幹部や働く人たちの「親方日の丸」意識は変わらず、低採算の事業も見直さない。結局、こうした官主導による不採算事業が、日本の民間企業の競争を歪め、高付加価値化を妨げているのだ。

 官僚の天下りを受け入れ、官の規制や助成金に頼る日本型の“民間”企業が増えれば、日本企業の国際競争力を弱め、低収益体質を温存することになるに違いない。

著者プロフィール

磯山 友幸(いそやま・ともゆき)

経済ジャーナリスト。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間 大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP )、『2022年、「働き方」はこうなる 』(PHPビジネス新書)、共著に『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP )などがある。


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