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「天下りの弊害」噴出の日本郵政 日本型“民間”企業で遠のく「真の民営化」磯山友幸の「滅びる企業 生き残る企業」(2/3 ページ)

» 2020年01月16日 05時00分 公開
[磯山友幸ITmedia]

着々と確立していた「天下り路線」

 もっとも、前出の高橋氏は、「再国有化からの再民営化はしていない」と指摘する。その理由は「小泉政権時の郵政民営化騒動をみれば、あまりに政治的リスクが大きいからであり、安倍政権の優先課題でもないからだ」という。その一方で、「こうしたトップ社長人事の陰で、郵政官僚はちゃっかり実利ポストを握っていた」ともいう。総務省から元郵政事業庁長官だった団宏明氏を副社長として送り込み、次いで団氏の後任として同じく郵政事業庁長官だった足立盛二郎氏を就任させた。西室氏が社長の時には、総務事務次官だった鈴木康夫氏を副社長に就けている。着々と「天下り路線」を確立していたというわけだ。

 保険の不正販売問題で、三社長がそろって辞任する方向は見えていたが、問題は後任人事だった。総務省の悲願は鈴木副社長の社長昇格。事務次官OBが社長に就く前例ができれば、「指定席」と決まったも同然だ。後任もその後任も総務次官が就任できる。民間出身の三社長を追い詰めた相次ぐ不正販売の情報は、現場から次々と噴出し、メディアに流れた。現場でのノルマ販売に陥った背景には、「親方日の丸」の経営体質の中で、民間並みの競争力のある保険商品を設計できなかったことに根本原因があるが、あたかも民間社長の「ノルマ」が厳しかったことが原因のようにすり替えられた。

 「民間の三社長のところには情報が上がってきていなかったのだろう」と別の政府系企業の役員についた民間金融機関出身者は見る。情報は総務省天下りの副社長や、旧郵政省入省のプロパー幹部で止まっていたのではないか、というのだ。今回、日本郵便とかんぽ生命の社長に就いたのは、郵政省から郵政公社、日本郵政へと移籍してきた人たち。つまり「プロパーの星」だ。本来、現場に通じている彼らにこそ、不正販売の責任はありそうなものだが、全て民間出身トップの責任とされた。後は、その後任に、総務次官OBが就けば、全て郵政一家の思い通りだったろう。

 ところが大どんでん返しが起きる。この鈴木副社長、民間出身の3人とほぼ同時に辞任に追い込まれたのだ。年末を挟んでメディアはすっかり忘れているが、総務省の事務次官だった鈴木茂樹氏が先輩である鈴木康夫氏に検討中の行政処分案を漏らしていたことが発覚。鈴木次官が辞任に追い込まれた。監督官庁と天下り先企業の「癒着の構図」が鮮明に浮かび上がったわけだが、情報の出し手が処分されながら、受け手はなかなか処分に踏み切らなかった。それが結局、「辞任」したのである。

 天下り先の企業が元官僚に求める最大の役割は、霞が関との「円滑な関係構築」である。先輩後輩の関係があれば、大臣室という密室での会話も手に取るように知ることができる。霞が関と一蓮托生の関係になれば、自社に有利な省令ができ、独占状態を維持できる。企業の中には政府が支出する膨大な助成金や公共事業の分け前に預かろうというところもある。営利企業が官僚OBにタダで給与を払うことはないのだ。

phot 日本郵政の社長に就任した増田寛也氏。旧建設省(現国土交通省)出身で、日本郵政発足時の総務大臣だ(写真提供:ロイター)

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