老舗銭湯、逆転発想で「密を見える化」 広告代理店から転職、異色の“銭湯革命児”がひらめいた秘策オフピーク銭湯(1/3 ページ)

» 2020年09月29日 08時00分 公開
[秋山未里ITmedia]

 新型コロナウイルス感染拡大の中で、銭湯はさまざまな問題に直面している。多い日には1日1000人以上が訪れる、昭和8年(1933年)創業の銭湯「小杉湯」(東京・高円寺)も例外ではなかった。

photo 高円寺の老舗銭湯「小杉湯」

 「今日は混んでいますか、という電話がとても多かったです」と話すのは小杉湯の菅原理之さん。新型コロナの影響で客数が減り、経営の見直しや、換気・消毒作業に時間を割きたいのに、電話の対応に追われる。「ずっと電話に対応することはできない。しかし、利用者の不安も減らしたい」というジレンマを抱えていた。

 番台が数時間で交代する勤務体制なので、混雑時間の把握は難しかった。センサーで人数をカウントする方法、券売機の導入、手動での計算などを検討したが、いずれもコストを考えると現実的ではなかった。

 そんな中で思い付いたのが、時間ごとに混雑状況が分かるグラフを、Twitterなどで発信する「オフピーク銭湯」の取り組みだった。

 オフピーク銭湯は、過去の利用者数と売上高のグラフを公開し、比較的混雑しない時間帯を知ってもらう取り組みだ。曜日ごとのデータ、昨日のデータを参考に、利用者が空いていそうな時間帯に来店できるよう後押しする。

 表示するグラフは、決済で使っているPOSアプリ「Airレジ」のものだ。本来は店側が時間帯ごとに売上を把握するために使う機能だが、グラフから具体的な数値を取り除いて、利用者にSNSで公開した。逆転の発想だった。

photo 小杉湯の休憩コーナーで話す菅原さん。外資系広告代理店から銭湯に転職した、異色のキャリアの持ち主だ

 小杉湯では2019年からバックオフィス業務を見直し、IT化を進めている。オフピーク銭湯で活躍したAirレジも、その際に導入したものだ。仕掛け人は菅原さんだ。

バックオフィスの見直しで、作業量が半分から3分の1に

 菅原さんが小杉湯に入社したのは19年9月。学生時代に起業、ITベンチャーを経て、外資系広告代理店に約12年間勤務。そこから銭湯に転職した、異色のキャリアの持ち主だ。

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