日本のインバウンドは「死ぬ」のか――コロナ後の観光生き残り策、観光社会学者に聞く京都観光の現実から読み解く(2/3 ページ)

» 2020年10月30日 08時00分 公開
[服部良祐ITmedia]

外国人向けサービス苦戦

中井: 他にも日本文化を体験するアトラクションなど、やはり外国人向けに営業していたサービスはきついと聞く。茶道や和服の着付け体験系の店などが該当する。日本文化体験にお金を払う日本人は少ない。インスタ映えみたいな要素で流行っている店もあるが、外国人客と日本人客では“映え”るモノが微妙に違う。特に、外国人向けに日本文化を紹介するようデザインされたサービスは苦戦しているようだ。

photo 中井治郎氏は京都在住の社会学者。1977年、大阪府生まれ。龍谷大学大学院博士課程修了。今は同大学などで教鞭をとる。専攻は観光社会学。近著は『観光は滅びない 99.9%減からの復活が京都からはじまる』(星海社新書)。

――コロナ禍を受けて国内需要にシフトした、京都の観光産業の対応をどう見ますか。

中井: 京都の観光業界は割と動きが速い。例えば神社では、さい銭箱の部分にガラガラと鳴らす鈴があるが、触れなくてもセンサーで音が出るようにする試みが出てきている。観光協会と神社仏閣が提携し、参拝前に事前予約を求める取り組みもある。「お寺や神社は予約するものだ」という新たな常識を作ろうとしている。

「第二第三のコロナ」はまた起こり得る

――「インバウンド無し」の前提の元、観光業界も少しずつ立て直し策を探っているようですが、そもそもこれほどの期間、インバウンド需要に致命的な影響がある災害は今まで想定されていたのでしょうか。

中井: 確かに、「インバウンド偏重でいつか痛い目に遭う」という指摘は以前からあった。ただそれは2019年の日韓関係悪化のような、国際関係が悪くなることによるダメージだった。マーケティングやプロモーションを1つの国に偏り過ぎるべきでない、という指摘はあったものの、全世界から人が来なくなるという事態は想定されていなかった。3・11の時も外国人客は非常に減ったが、あれも期間は限定的だった。今のこのような状況を想定していた人はほとんどいなかったと思う。

 コロナ禍が明らかにしたのは、要するにここまでグローバリゼーションが進んでしまった、ということだ。よく比較されるのはSARS。あれも(当時は)未知の感染症で、中国を中心に東アジアの観光が落ち込んだ。ただ、十数年後の今に(同じ感染症である)新型コロナが発生すると、これほどの(SARS時以上の)規模の災害になる。今やLCCなどで気軽に海外に行ける時代、スピードを持って感染症は広がっていった。

 だから、今回のコロナだけでなく(感染症による大打撃は)繰り返し起きる可能性がある。観光だけでなく各業界は、今後もこうした「コロナ的」な事案がまた起こり得ると想定して、産業を作り直すべきだろう。観光業を立て直すとしても、5年前の時点の観光産業(の状態)を復活させればいい、という訳ではない。第二第三のコロナが来たら、また潰れてしまう。災害に強く、パンデミックが起きてもダメージを最低限に抑えられるような産業にすべきだ。

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