日本のインバウンドは「死ぬ」のか――コロナ後の観光生き残り策、観光社会学者に聞く京都観光の現実から読み解く(3/3 ページ)

» 2020年10月30日 08時00分 公開
[服部良祐ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

観光業界の「リスクヘッジ」策を

――具体的にはどのような施策が考えられますか。

中井: 京都市観光協会を始めとした観光業界サイドに聞くと、やはり「リスクヘッジ」のビジョンを描いているようだ。例えば「うちは中国人客だけでやっています」というよりも、彼らは3割程度で、多種多様な人々を相手に商売をする、というイメージ。インバウンド偏重の時期においては、外国人客ばかり受け入れていた点が問題だった。客(層)を分散すべきだろう。

 地域全体の観光業との付き合い方も重要だ。よく地方創生の特効薬として観光業は重宝されてきたが、今や水物で不安定要素のある産業だと明らかになった。例えば宿に客が来なくなれば、そこに食材を卸していた地域の農家も潰れてしまう。観光産業が客層にリスクヘッジを掛けるように、地域社会も有事の際に観光業と心中しないよう、寄り掛かり過ぎない工夫が必要だろう。

――今後、コロナ禍が仮に一定の終息を見た後の日本の観光産業はどうなると考えますか。インバウンド偏重の問題点が明らかになったとはいえ、人口減で内需が先細る中、日本人客のみに頼るのも現実的ではないと感じます。

中井: 日本の内需に関しては、これはどうしようもない話だ。結局、国内旅行に頼って観光産業を維持するのは基本的に無理で、では産業(規模)自体を縮小していくのか、という話になる。

 一方、ここからは未来予測の話で難しいが、昔以上に外国人客が(コロナ終息後に)来る、という状況も想像しづらいと感じる。既にコロナ以前から、各国の観光都市では「これ以上旅行者の数が増えても受け入れは無理だ」という話が出ていた。京都も同様だった。

――過剰な数の観光客が人気観光地に殺到することで、現地で引き起こされる社会問題「オーバーツーリズム」ですね。

中井: そのような流れの中で、新型コロナは起きた。コロナ禍終息の後も外国人客の数は減ると思う。以前のような客数が戻ることは無く、その代わりに外国人1人当たりの客単価を上げて観光産業を維持する方向に向かうのではないか。やはり内需だけでは難しいと思う。

 また、観光産業そのものの定義も変わるかもしれない。オンラインツアーの話が話題だが、果たしてあれを「観光」と言っていいのか。旅行番組とどう違うのか、という見方もある。一方で、(実際に)観光客が来なくなって困っている旅行業者はもっとオンラインツアーに乗り出すかもしれない。「京都に実際に行くのは3年に1回だが、毎週オンラインツアーに参加している」といったお客さんも増えるのでは、と思う。物理的に訪れる客数は減っても、オンラインでの市場が形成されるかもしれない。

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.