帝国ホテルがコロナ禍でのテレワーク需要を先取りして、客室を長期間貸し出す「サービスアパートメント」事業を発表した。価格は約30平方メートルのスタジオタイプで月額36万円(税・サービス料込、以下同)。短期滞在にも対応し、5泊15万円から利用可能とする。他にも、約34平方メートル+36平方メートルのコネクティングスタジオ(月額72万円)、約50平方メートルのプレミアスタジオ(月額60万円)のプランを用意した。
改修したアパートメントフロアには、共同利用スペースの「コミュニティルーム」を新たに設置。朝食を無料で提供するほか、洗濯乾燥機や電子レンジなどを自由に利用できるようにする。また、ルームサービスによる食事を月額6万円、ランドリーサービスを月額3万円のサブスクリプション方式で提供する。
販売初日で予約が満室になるなど、人気を博している。宿泊客の激減でホテルの稼働率が悪化。打開策を迫られていた同社が打ち出したのが、これまでの宿泊客をおもてなしするホテルから、長期間滞在してホテルに住んでもらう顧客をターゲットにした新しい事業だ。
この事業に企画段階からかかわってきた小池崇裕企画部課長に、狙いと今後の展開をインタビューした。
――いつごろから「サービスアパートメント」の構想を考えていたのか。
構想としては以前からあったが、昨年の5月に、緊急事態宣言解除後のホテルの再開について検討する運営再会準備委員会が組織され、その際に、私を含めて5人が事務局を任された。定保英弥社長からは全社員に、メールでコロナ禍を生き抜くためのアイデアを募集した。
集まった5500件ほどの中からアイデアを集約していく中で、「サービスアパートメント」が浮上し、もともとの構想と合わせて実現の可能性を調査した。その結果、コロナ禍でホテルとして新しい取り組みが必要とされる中で、経営陣も実施の判断をして、そこからはスピーディに商品化に漕ぎつけた。
――なぜ新しいサービスが必要と判断したのか。
ホテルは社会の要請に対して、新しい価値を提供しなければならないと思っている。コロナ禍の長期化でニューノーマルの状態に変化しているので、なおさらそうだ。これは帝国ホテル生みの親である渋沢栄一初代会長から引き継がれている社員の「DNA」だと思う。ホテルで宿泊することはある意味で「非日常」なことだが、それを「日常」に転換することに加えて、常に接触してもらえるホテルにするにはどうしたらよいかを考えた。
――「サービスアパートメント」の基本的なコンセプトは。
おもてなしが求められる宿泊客とは全く異なる顧客を想定していて、ホテルに住んでもらうイメージだ。ホテルを長期間滞在する文字通り「アパート」として使ってもらうので、サービスの付加価値が全く異なる。基本的な生活に必要なものはご自身でご用意いただくので、ホテルのサービスを強制せずに、好みに応じて自由に過ごしてもらえるのが特徴だ。
帝国ホテルにある931室のうち99室を「サービスアパートメント」として提供する。またその他に3室は、長期滞在者が洗濯や炊事、レンジでの食材のあたため、アイロンかけなどに共用で使える「コミュニティルーム」を設けており、自由に利用できる。一方で、ルームサービスやランドリーをサブスクリプション方式で追加できるなど、チョイスの幅を広げた。
――発表してからすぐに問い合わせが殺到し、予約開始後すぐ予約が埋まったそうだが、どういうお客が申し込んできたのか。
予約を開始した当日に、募集した3月15日から7月15日までの期間が満室になった。法人からの契約などを主なターゲットとして想定していたが、実際には企業の役員、個人オーナーからの直接の申し込みが多く想定外だった。法人で契約するとなると決裁のために時間がかかる一方、個人事業主などは個人の判断で申し込むことができる。ニーズは狙っていた外側にもあった。
予約されたお客さまの分析はまだ十分にできていないものの、帝国ホテルに長期滞在することで、これまでにない体験を得たいと期待しているお客さまが多いのではないか。中にはいつもならば海外クルージングに出掛けていた方が、クルージングが中止になったために申し込んだケースもあった。
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