「日本は国民1人あたり1000万円近い借金を抱えている」。誰もが一度は耳にしたことがあるフレーズだろう。コロナ禍において国家は、生活困窮者を中心に国民全員を支援するべきであるものの、これ以上の財政出動をすれば日本は財政破綻してしまうかもしれない――。
それでは、日本政府はいかにして現状を打破すればいいのか。そんな疑問に明確な提言を掲げるべく、京都大学大学院の藤井聡教授とともに『こうすれば絶対よくなる! 日本経済』(アスコム)を上梓した田原総一朗氏。
田原氏といえば、かつては財政再建をすべく、積極財政には否定的だった印象がある。だが本書では、藤井教授のMMT(現代貨幣理論)に立脚した提言に共感を示している。その背景について、獨協大学の森永卓郎教授の長男で、新進気鋭の経済アナリストである森永康平氏がインタビューした。
MMTは、日本や米国のように円や米ドルなどの自国通貨を持ち、変動相場制を採用している国は債務不履行に陥ることはないと主張する経済理論だ。この理論に基づけば、財政出動の際は財政黒字なのか、財政赤字なのかという財政状態ではなく、物価上昇率(インフレ率)を判断基準にすべきであり、インフレ率がある一定の高さに上昇するまでは積極的に財政出動をすべきだと提言している。現にコロナ禍のいま、米国をはじめとする世界各国で巨額の財政出動が実行されている。それゆえにMMTが世界中から注目を集めている。
過度なインフレにならない限りは国の借金が膨らんでも問題ないとするMMTを田原氏はどう見ているのか――。
――先日の『朝まで生テレビ!』ではお疲れさまでした。本日はよろしくお願いします。
よろしくお願いします。あなたはいま何歳?
――1985年生まれで、いま36歳です。
1985年は日本経済にとって非常に大変な年だった。2月に田中角栄が脳梗塞で倒れて、7月には国鉄の鉄道事業を6つの旅客会社と1つの貨物会社に分割するとともに、民営化する意見が取りまとめられた。そして、なんといってもプラザ合意があった。米国が為替を一気に円高にして日本を攻撃したんだ。
――大変な年といえば、まさにいま日本も大変な局面を迎えています。国民はいまだに収束の兆しが見えないコロナ禍に疲弊しています。どうすれば日本経済は回復できるのでしょうか?
それを説明するためにこの本(『こうすれば絶対よくなる! 日本経済』)を書いたんだ。これから職を失う人ももっと多く出てくるし、倒産する企業も増えてくる。政府はいま企業に貸し付けをしているけど、本来は補償をしてあげるべきだった。十分な給付金や補助金を出すために、野党は国会を延長して掛け合おうとした。ところが、与党は6月26日に国会を閉じてしまった。
財務省が追加の財政出動を嫌がったから、これ以上の議論をしないために国会を延長しなかったと野党は主張していた。だから、菅(義偉)さんに聞いてみた。すると菅さんは「それは違う。いま組んでいる予算で十分対応できる」と言ったんだ。
――そうですか。とても十分な予算額とは思えませんし、すぐにでも新たな補正予算を組むべきだと思いますが、どうもこれ以上は財政出動したくない印象をぬぐえませんね。
米国のバイデン(大統領)はMMTに基づいた財政政策をやっているよね。日本と経済規模が違うことを差し引いても、コロナ禍で巨額の財政出動をしている。米国だけじゃなくて、世界が藤井さんの提唱しているMMTに基づいた政策を実践しているじゃないか。
――藤井先生は本書の中でMMTに立脚してさらなる積極財政を提言していますが、田原さん自身の意見としても、いまは積極的に財政出動すべきだと思っていますか?
いまはインフレになっていないからね。これまでは日本の財政状況が悪いから、財政再建をしないといけないと思い込んでいた。それだけにMMTの考え方は、僕にとって衝撃的だった。
それで、藤井さんを『朝まで生テレビ!』に呼んで一緒に討論したのだけど、想像以上に積極財政への反対意見は出なかったね。有難いことに、この本も売れているみたいだ。多くの人が考えを改めたのかもしれない。
まずはもっと財政出動をして、インフレになるかどうかを注視すればいいのではないかと思うね。
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