小山田圭吾炎上騒動に学ぶ、企業担当者が「ブラック著名人」とのコラボを避ける方法スピン経済の歩き方(4/6 ページ)

» 2021年07月20日 09時16分 公開
[窪田順生ITmedia]

意見が言えない組織

 しかし、改めて感じた結果が「これ」だ。壮絶な障害者いじめをしていた過去のある小山田氏をノーチェックで起用して、全世界に「日本では障害者をいじめても、世間で叩かれるまでは謝罪しなくてセーフ」というダイバーシティ&インクルージョンを嘲笑うかのような真逆のメッセージを発信してしまっている。

 厳しい言い方だが、これまでの努力がまったく報われていないのだ。

 というと、なにやら茅氏を個人攻撃しているように聞こえるかもしれないが、そういうつもりは毛頭ない。この人に、この大会が「多様性と調和」というコンセプトから逸脱していないかなどチェックをしろというのはかなりの無茶な要求だからだ。外部から見る限り、茅氏の立場ではその「権限」がないのだ。

 組織委員会のWebサイトにある「組織図」をご覧になっていただきたい。事務方トップである、武藤敏郎事務総長(CEO)の直轄部署として、「パラリンピック統括室」「セレモニー室」「聖火リレー室」「ゲームズ・デリバリー室」などの部署が並んでいるが、「ダイバーシティ&インクルージョン推進」はどこにもない。

組織委員会の組織図(一部抜粋、出典:組織委員会

 武藤氏と並ぶ、副事務総長や、チーフ・セキュリティ・オフィサー(CSO)、役員室長、スポーツディレクターなど幹部の並びの中にも、「ダイバーシティ&インクルージョン推進ディレクター」という役職は見つけられない。

 では、IOCが「あらゆる活動の核心的な要素」と位置付けるダイバーシティ&インクルージョンの推進ディレクターはどこに入るのかというと、組織図の中で幹部たちの集団から分離された形で並んでいる管理部門。実はさまざまなインタビュー記事を見る限り、茅氏の肩書きは「総務局 人事部 D&I推進担当 ディレクター」となっているのだ。

 企業にお勤めの方ならば、筆者が何を言わんとしたいかもうお分かりだろう。営業部やマーケティング部がコツコツと進めてきたプロジェクトに対して、人事部の部長が「ちょっとそれダイバーシティーの観点から問題だから白紙に戻してくれる?」なんて口出しをすることができるだろうか。できるわけがない。会社によっては、そもそも人事部にそのような情報すらあがってこない可能性さえある。

 組織体制の細かな違いはあれど、「総務局人事部D&I推進担当ディレクター」も同じではないか。組織委員会という巨大組織の中で、セレモニーを担当する人々が、さまざまなアーティストたちと水面下で交渉を続けているところに、いちいちダイバーシティ&インクルージョン推進の担当者に人選などでおうかがいを立てるだろうか。逆に、もし情報が共有をされていたとしても、人事部が首を突っ込んで「ネットやSNSで障害者いじめの過去が指摘されているから小山田圭吾はNGね」なんて意見が言えるだろうか。

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