コインチェック超える“680億円”の仮想通貨盗難、クラッカーが286億円返金したワケ古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2021年08月13日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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業界全体でクラッカーを“締め出し”

 クラッカーが盗難した仮想通貨を返金し始めた理由はもう1つあるとみられる。それは、仮想通貨業界が連帯してクラッカーが関連するアドレスの入出金防止や、資産凍結に動いたことだ。

 クラッカーは世界最大級の仮想通貨交換所であるバイナンスやビットフィネックスなど、世界中の仮想通貨交換所からアドレスがマークされ、関連アドレスからの入金が拒否、捜査機関への情報提供が行われることになる。クラッカーのアドレスから別のアドレスをかませたとしても、その仮想通貨のトランザクションをさかのぼって盗難された仮想通貨かどうかが分かる。

 また、仮想通貨取引で最も利用率の高いドルペッグのステーブルコイン「USDT」を発行しているテザー社は、ハッキングに使われたアドレスに存在するUSDTの凍結を発表している。これも、お金にいわゆる“色”が付いているからこそなせる技である。

 では、オフラインでの出金はどうか。仮にクラッカーが海外のビットコインATMなどで出金を試みた場合、捜査地域が「世界中」から「引き出しがあったビットコインATM」へかなり絞り込まれるため、足がつくリスクが格段に上がる。さらに、ビットコインATMにおける1日の出金限度額はおよそ50万円程度であることから、数百億円の出金にはとてつもない時間がかかる。

 つまり、Poly Networkのクラッカーは出口のない迷路に逃げ込んだようなものであり、実質的には画面上でただ表示される数百億円の“表示”しか得られていないような状況にあるのだ。

仮想通貨の窃盗は現金の窃盗より難しい

 したがって、クラッカーが盗んだ仮想通貨を返金し続けているのは、クラッカーが自身の八方塞がりな状況を悟ったものとみられる。実際、仮想通貨市場は今回の盗難劇をネガティブ材料とすら認識しておらず、足元におけるビットコイン価格は500万円、イーサリアム価格は35万円程度と史上最高値付近まで回復している状況。18年のコインチェックを皮切りに仮想通貨市場が下げ続けた過去の事例とは、相当異なることが市場の反応からも伺える。

 「遠足は家に帰るまでが遠足」と、目的地から安全に家まで帰ることが大事であるという慣用句がある。あえて窃盗犯風に言い換えれば、「窃盗も家まで持ち帰るまでが窃盗」だろう。仮想通貨の盗難は盗むという目的地に達することができても、持ち帰ることが難しい。トータルで見れば現金や貴重品などの盗難より何倍も難しい犯罪だ。やはり仮想通貨の窃盗に手を染めるのは賢明ではない。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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