「できない理由ばかり探す人」が、会社で量産されるワケスピン経済の歩き方(4/6 ページ)

» 2021年08月17日 11時07分 公開
[窪田順生ITmedia]

「霞ヶ関のファックス廃止」問題

 まず、インテリが「できない理由」ばかりを並べがち、というのは国内外の有名経営者の多くが指摘している。有名なところでは、松下幸之助氏だ。自動車王ヘンリー・フォードの「いい技術者ほど、できないという理論を知っている」という格言を引き合いにこう指摘している。

 「“インテリの弱さ”という言葉があるが、なまじっか知識があるために、それにとらわれ、それはできないとか、どう考えてもムリだと思い込んでしまって、なかなか実行に移さないという一面をいったものだと思う」(松下幸之助オフィシャルウェブサイト)

 そんな風に何かとつけて「できっこない」を叫ぶインテリたちが「ムラ社会」を形成すれば、新しいシステムの導入や改革を嫌う組織ができるのも当然だろう。分かりやすいのが、「霞ヶ関のファックス廃止」だ。

ファックスだけでなく印鑑文化もまだまだ根強い(写真提供:ゲッティイメージズ)

 ご存じのように、霞ヶ関の官庁に対して河野太郎行政改革大臣が「ファックス廃止」を迫っていたのだが、官僚側から「ファックスはサイバー攻撃に強い」「国会、警察、保健所など重要な情報を扱う機関がファックスでやりとりをしているので、霞ヶ関だけが急に変えられない」などの「できない理由」が約400件も殺到して事実上、頓挫したのである。

 「セキュリティの問題ならしょうがない」と納得される声も多いが、実はこれは「できない理由を探す人」がよく使う「改革潰し」の代表的なテクニックの一つだ。

 確かに、役所や警察が取り扱っている情報に、セキュリティ面からファックスでのやりとりをしたほうがいいものがあることは紛れもない事実だが、それはほんの一握りに過ぎない。大多数は「メールでやりとりをしても問題ない情報」なのだ。

 役所では、紙の行政文書が一定期間保管後にサクッと廃棄されるという問題も多発しているので、こちらは仕事の効率化や、データ管理の観点からもデジタル化を進めたほうがいいことは言うまでもないが、何年も先送りされている。議論になっても「一部のセキュリティ上、紙のままでいい情報」を引っ張り出されて、「ま、急に変えるのは難しいよね」と現状維持に落ち着く。この無限ループなのだ。

 それは昨年、東京都でコロナ感染者数の集計ミスが続発した騒動を見れば明らかだ。都内の保健所からファックスが殺到して通信エラーが起きた、というあまりにお粗末な不手際は、新型インフルエンザ流行の時代や、災害対応などでもたびたび問題視されてきた。この手の患者や被災者の情報などは、性別や年代しか記されていないので仮にハッキングされたとしても大きな問題がないので、統一したシステムを導入したほうがいいに決まっている。

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