経済事件を予言? ビジネスパーソンこそ『ゴルゴ13』を読むべき理由スピン経済の歩き方(2/6 ページ)

» 2021年10月05日 09時20分 公開
[窪田順生ITmedia]

「予言」のように的中

 ふざけているわけではない。事実として、『ゴルゴ13』は日経やビジネス誌以上の高い精度で未来を的中させている。さまざまな作品の中に「予言」のような形で、日本企業や日本経済が抱える問題点が先回りして描かれている。経済評論家の未来予測もほとんど当たらないと言われている中で、これは驚きに値する。

 分かりやすい例が、2017年10月に発覚した神戸製鋼の「データ改ざん」だ。アルミ・銅製品を出荷する際、取引先が求める仕様に達していない製品を、現場でデータ改ざんしていた。しかもそれがなんと1970年代から続いていた、というニュースに日本中が衝撃を受けたはずだ。

 しかし、筆者はそれほど驚かなかった。むしろ、「ああ、やっぱりそうなんだ」と妙に納得した。『ゴルゴ13』で既にこの問題を読んでいたからだ。

 13年2月に発表された「腐食鉄鋼」という作品がある。これは、新日鉄が昭和40年代に開発して門外不出としてきた「方向性電磁鋼板」という技術を退社した社員が、韓国の鉄鋼大手ポスコに漏洩(ろうえい)させ、中国の鉄鋼メーカーにも売り渡してしまったという事件をモチーフとしたフィクションだが、なんとその中に、神戸製鋼のデータ不正を「予言」したようなエピソードも描かれているのだ。

 物語は、唯一無二の特殊鋼技術を持つ大日新鉄鋼の会長が、中国企業からカンボジアに合弁会社をつくるように持ちかけられるところから始まる。合弁会社とはいえ、中国人技術者が特殊技術に触れるので技術漏洩の恐れが高い。そこで会長はこの話を断ろうとするが、中国側は、大日新鉄鋼が40年以上前から隠ぺいしている「データ不正」を持ち出して、計画に加わらないとこれを公表すると脅してきたのだ。

 実はこの不正は昭和40年代に若かりし日の会長がかかわっていた。高度経済成長期でJIS規格が次々と変更されていく中で、大日新鉄鋼は近々決定するという新しいJIS規格の情報を入手。それは、従来の合金成分に希少金属タングステンを1.5%加えてもいいというもの。そこで会長たちは先行してこれを製品化するが、結局そのような規格になることはなかった。つまり、図らずも「規格外」の違法な製品をつくってしまったのだ。

 ただ、この特殊合金はJIS規格を満たしていないものの、強度がケタ外れに強いので会長は、数値を偽って火力発電や原発にも納入していたのである。その秘密を元社員から入手した中国側が交渉材料に使ってきたというわけだ。

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