1ブランド時代の伝統的なプリンスホテルのイメージは、ある種ブランドとして確立されていたように思う。多ブランド化に際しては、「イメージがバラバラになってしまうのでは?」と危惧する声も当時ホテル内にあったという。
多ブランド化によって先行投資も含めた品質改善は必須となっていった。具体的には「食」と「デザイン」が指摘でき、食に関しては最重要課題だったという。当時、プリンスホテルの食事はまだまだ改善の余地があった。
食の品質改善として東京シティエリアで取り組んだのが“海外のスターシェフとのコラボ”だった。確かに近年のプリンスホテルでは、毎年さまざまな国をテーマにしたフェアを積極的に行っている印象がある。
海外のスターシェフを招聘して驚かれたのが、日本の料理人の技術レベルの高さだったという。もともとの技術は高いのに、やはり感性やセンスといった部分に大きな差が出るのもまた料理なのだろう。国内試合しかしていなかったサッカーチームが国際試合をやったようなもので、次第に料理は変わっていった。これもまた、進化途上といった印象であるが、ディレクションを示すマネジメントはホテルにとっても重要ということだろう。
食と並んで取り組んだのが「デザイン」だ。プリンスホテルの伝統的な建物で特徴的なのは、歴史的にも名高い有名建築家の作品が目立つということ。反面、名建築をそのままにしていたのもまたプリンスホテルであった。アーキテクト(建築家)の時代からいまはインテリアデザイナーの時代だ。
インデリアデザイナーの作風がホテルのイメージを形作る。そもそもの設計思想を引き継ぎつつ、効率的な運営にも資するべくどう発展させることができるのか、これもまた新生プリンスホテルの品質改善テーマとなった。
余談であるが、新しいホテルで見かけるのがスタッフのユニフォームもインテリアデザイナーが担うケース。ユニフォーム=作業着からホテルデザインの一部という発想もプリンスホテルに落とし込まれていった。
(前編了)
前編では、東京を中心としたプリンスホテルのブランド化や食、デザインの品質改善について考察した。後編(「40施設を売却」と報じられたプリンスホテルは“崖っぷち”なのか 現執行役員が語った生き残り策とは)では、エリア化の功罪や気になる売却後についても考察する。
瀧澤信秋(たきざわ のぶあき/ホテル評論家 旅行作家)
一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。
日本を代表するホテル評論家として利用者目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。その忌憚なきホテル評論には定評がある。評論対象は宿泊施設が提供するサービスという視座から、ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、旅館、簡易宿所、レジャー(ラブ)ホテルなど多業態に渡る。テレビやラジオ、雑誌、新聞等メディアでの存在感も際立ち、膨大な宿泊経験という徹底した現場主義からの知見にポジティブ情報ばかりではなく、課題や問題点も指摘できる日本唯一のホテル評論家としてメディアからの信頼は厚い。
著書に「365日365ホテル」(マガジンハウス)、「最強のホテル100」(イースト・プレス)、「辛口評論家、星野リゾートへ泊まってみた」(光文社新書)などがある。
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