「今日の仕事は、楽しみですか」に、なぜイラっとしたのか 「仕事が苦痛」な日本人の病スピン経済の歩き方(3/6 ページ)

» 2021年10月13日 08時13分 公開
[窪田順生ITmedia]

世界の常識が通用しない

 世界では「仕事が辛い」という労働者たちの苦しみを和らげるのは、とにかく「賃金」だという考え方が強い。だから、先進国でも順調に最低賃金を引き上げるなどして、賃上げをしてきた。無論、「賃上げしたら中小零細は倒産して、失業者があふれかえるぞ」と騒ぐ経営者もたくさんいたが、政府は引き上げを断行した。

 デービッド・アトキンソン氏が『最低賃金引き上げ「よくある誤解」をぶった斬る』(東洋経済オンライン 19年10月9日)の中で紹介しているように、ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン教授をはじめ、最低賃金が低い国が、最低賃金を引き上げても雇用に悪影響を及ぼすという証拠は存在しない、または雇用に及ぼす影響が極めて小さいことを示すエビデンスがそろってきたからだ。

 冷静に考えれば、これは当然だ。最低賃金の引き上げで経営が苦しくなるような企業が従業員を解雇しても、その人はずっと失業しているわけではない。むしろ、これまでより遥かに条件のいい職を得る機会になるだけだ。だから、世界では当たり前のように賃上げをする。劣悪な労働環境だと叩かれることの多い、アマゾンも日本円で時給2000円程度まで上がっている。

最低賃金の推移(出典:労働政策研究・研修機構)

 しかし、日本ではこういう世界の常識が通用しない。

 経済評論家も、中小企業経営者団体も、最低賃金を平均で28円引き上げるだけで、大恐慌がやってくるくらいの勢いで大騒ぎ、経済産業省の官僚まで「最低賃金を引き上げればいいという単純なものではない」などと言って、ノーベル賞受賞者を愚か者扱いする始末だ。

 なぜこうなるかというと、この国はいまだに科学より宗教が勝っているからだ。世界のエコノミストたちの最新の経済分析より、「賃上げだけが労働者を幸せにするわけではない」というふわっとした話のほうが聞いていてしっくりくる。安心するのだ。

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