株価低迷でも年収4500万円、好待遇維持するテンセントの狙い浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(4/4 ページ)

» 2021年12月09日 07時00分 公開
[浦上早苗ITmedia]
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業界低迷で福利厚生に変化も

 メガITの高年収、巨額ボーナスは今に始まったことではなく、各社が競い合うように大盤振る舞いしている。最近ではスマートフォンメーカーのシャオミが7月、社員122人に1人当たり3億円相当の株式報酬を付与した(筆者記事参照)。

 ただ、最近は「株式報酬」が社員にとってそれほど嬉しいものではなくなっている。例えばテンセントは今年2月に「1年後に売却できる」株式を付与したが、株価は2月の760香港ドルから現在は460香港ドル前後に下落した。従業員は、手にした株式を売るに売れない状況だ。

 背景には中国当局が昨年11月からIT業界への規制を強めていることがある。世界最大のゲーム会社でもあるテンセントは、未成年へのプレイ制限によって業績が伸び悩んでいる。業界全体が低迷しており、独占禁止法違反で処罰されたEC大手のアリババの時価総額は1年で半分以下となり、今年6月30日に米国で上場した配車サービスDiDi Chuxing(滴滴出行)に至っては上場廃止方針が決まった。

 そんな中でアリババグループは12月3日、従業員の福利厚生を改善し、産休の延長、育児休業の新設に加え、リモートワークの導入を検討すると公表した。

中国の東莞市・松山湖にあるファーウェイのキャンパス(拠点)内の社員食堂は、高級感のあるビュッフェ形式(筆者撮影)

 長時間労働は「IT業界」の代名詞で、ここで紹介したアリババ、テンセント、バイトダンス、シャオミのいずれもが「996」(午前9時から午後9時まで、週6日働くという意味で、長時間労働の比喩)が常態化している。

 業界が押せ押せムードのときは、ストックオプションなど株式報酬を人参に、社員も長時間労働を受け入れたが、規制によって成長の踊り場に直面したことで、空気が変わりつつある印象もある。実はバイトダンスも今年8月、「隔週日曜日出勤」を取りやめた。

 IT業界規制がいつまで続くかは見通しにくく、最近の同業界は高報酬での人材引き抜きと大規模リストラが同時に起きている。転職してもリスクがついて回ることを考えると、企業・社員ともにワークライフバランスを重視する雰囲気が高まっていくのかもしれない。

筆者:浦上 早苗

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。
最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37

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