もちろん、保護者の子どもの誕生日を祝いたいという気持ちが大前提にあるが、それ以外の要因もあると筆者は考える。まず、子どもにとっては「プレゼントをたくさんもらえる」「豪勢な方が楽しい」といった直接的な効用が動機にあるのは確かであるが、誕生日パーティーの質が自身のスクールカーストの階層に直結するため、人より豪華に、人より楽しいパーティーを開きたいと考える子どもも多いのではないかと、筆者は考える。
残念ながら日本にもイケてるグループとイケていないグループといった形でスクールカーストと呼ばれる学校内やクラス内における人気の序列が存在している。しかし、特に北米におけるスクールカースト(英語ではSchool clique)はより顕著なもので、カーストが上位であるほど学校生活は充実したものとなり、カーストが下の者ほどイジメの対象となってしまう。
Jock(ジョック)と呼ばれるアメフトやバスケットボールのスター選手が学校の中心で、Queen bee(クイーン ビー)と呼ばれるチアリーダーやおしゃれな女の子がその周りにいて、Nerd(ナード)やTarget(ターゲット)と呼ばれる人気のない学生が彼らにいじめられるという、学校内の人間関係模様を洋画やドラマで見たことのある読者もいるのではないだろうか。
子どもたちにとっては、いかに人気者と仲良くするか、いかに自分をイケてるやつだと他の生徒たちにアピールできるかが重要であり、誕生日パーティーはこれをアピールできる絶好の機会なのである。従って、人気者ほど呼ばれる誕生日会の数は多く、誕生日会のクオリティーを比較することができるため、子どもたちは人気者にアピールできるように他の子どもよりもいっそう豪華に、楽しいパーティーを開催することを親にねだる。また、親世代にとっても自身も同様の経験をしてきたことであり、子どもの気持ちが分かることから、極力かなえてあげたいと思うわけである。
一方で親起点でも豪華な誕生日パーティーが増えているようである。前述したPingitの調査によれば、調査対象の多くがソーシャルメディア(30%)、家族(25%)、有名人(18%)といった他人からの影響を受けていることを認めている。また全体の約20%は、ソーシャルメディアのインフルエンサーや有名人が主催するパーティーをまねしようとしたことを認め、10%は他の親よりも優れたパーティーにしようとしたことがあると答えている。
子どもたちのパーティーを開くこと自体がSNSに投稿する目的になっており、子どものためのパーティーというよりも、ママ友や親戚にどれほど素晴らしいパーティーを開くことができたかをアピールするための、親自身の承認欲求充足の場となっているのである。
特に昨今の北米においては「SNSにアップされていなければ、何も起こっていないのと同様」という消費文化が日本よりも強く定着してきており、誕生日というイベントはさまざまな産業を巻き込む一大マーケットとなっているのである。
従来のように友達と家でケーキやピザを食べたり、ピザショップやゲームセンターを貸し切ったりといったシンプルな誕生日パーティーは、Amazonのおかげでより豪華な装飾品がそろい、Instagramのおかげで競い合う場の対象となり、更にパーティープランナーのおかげで家庭“的”から手が離れ、セレブ達が開くようなGALA(セレブリティが集結するパーティー)のようにきらびやかに、ついには子どもを祝うという本質から離れた空虚なモノへと変化しているのである。
そのため、前述したアンダーソン・ハウスで開かれた1歳児の誕生日パーティーのように、子ども自身にとっては価値が全く分からず、将来的にも全く覚えていないと思われる誕生日パーティーが競い合うように開かれているわけである(親自身にとっても子どもの誕生日は、親になってから〇年という記念日であるため、自身をねぎらう意味で開かれているならばそれを否定する気はない)。
米国労働統計局によると、ミーティング、コンベンション、イベントプランナーの雇用は、2020年から2030年にかけて18%成長すると予測されており(※13)、ますますパーティープランナーの需要は高まっていくと思われる。一方で、このような豪華な誕生日パーティーが「普通」へと変化していく中で、誕生日パーティーを開くことにストレスやプレッシャーを感じている消費者がいることも確かである。前述したvouchercloudの調査においても「毎年子どもの誕生日パーティーをしていない」と回答した35%の調査対象全員にその理由を尋ねたところ、47%が「毎年パーティーを準備するのは大変だから」、41%が「お金をかける余裕がないから」と、多くの者が誕生日パーティーを開くこと自体に大きな負荷がかかっていると回答している。
もちろん、全ての家庭が何十万円もかけて誕生日パーティーを開いているわけではないが、一部には異常すぎるほど豪華な誕生日パーティーが開かれているという事実もあり、もし自身の子どものコミュニティーの中にそのような家庭で育った子どもがいるとしたら、間違いなく子どもたちの「憧れの誕生日パーティー」の基準は引き上げられてしまうだろう。同調査によると、回答者全体の71%が、「来年はいつもより費用を抑えよう」と考えてはいるものの、その内81%は、「自分の子どもに友達と比べて最高のパーティーをさせたい」と考えているため、家庭のお財布事情とは裏腹に、この「誕生日パーティー文化」はより拡大していくだろう。
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