「日清の“謎肉”がなくなれば、日本の生命線が守られる」は本当かスピン経済の歩き方(1/6 ページ)

» 2022年04月26日 09時44分 公開
[窪田順生ITmedia]

 そう遠くない未来、これがカップヌードルの具として人気を誇る「謎肉」の代わりになるかもしれない。3月末、日清食品ホールディングスが、東京大学の研究グループとともに開発したと発表した、「食べられる培養肉」のことだ。

 日清HDと東大の研究グループは2017年から培養肉の研究を進めているが、これまでは牛肉由来の筋細胞と「食用ではない研究用素材」を用いて肉を培養していた。それが今回、「食用血清」と「食用血漿 (けっしょう)ゲル」という食用可能な素材を独自に開発したことで、初めて「食べられる培養肉」の作製に成功したという。これによって実用化へ向けて、「大量生産」「低コスト」とともにクリアーしなくてはいけない、「おいしさ」という課題の解決に大きく近づくことができるというわけだ。

日本初の「食べられる培養肉」

 ご存じのように今、世界では「培養肉」がアツい。米国の培養肉メーカー、Eat Just社は、シンガポールで鶏の培養肉の販売許可を得ており、既に市場で販売している。。また、オランダの培養肉スタートアップ、Mosa Meat社には、ハリウッドスターのレオナルド・ディカプリオが出資して、こちらも大きな話題となった。日本でも食肉大手、日本ハムがバイオベンチャーと組んで培養肉開発に乗り出している。米コンサルティング会社、A・T・カーニーによれば40年には、世界の食肉市場の35%を培養肉が占める見通しだという。

 つまり、そう遠くない未来にカップヌードルの「謎肉」も「サイコロ状の培養肉」にとって代わっていく可能性が高いのだ。

 肉と大豆由来の原料に野菜などを混ぜて味付けした「謎肉」は熱烈なファンも多いので「培養肉なんかに変えるな」と思う人も多いかもしれない。ただ、日本の「食の安全保障」を踏まえれば、1日も早く「謎肉」がなくなることが望ましい。「培養肉」が社会に広く普及すればするほど、日本の生命線が守られる確率が高くなるからだ。

「カップヌードル」の謎肉が炒飯に(出典:日清食品)

 と聞くと、「はいはい、タンパク質危機っていうやつね」と思う方も多いだろう。実は人口増加と新興国の経済発展で、50年の肉消費量は05年の2倍近くまで増加するという試算がある。そんな世界的にタンパク質不足を解消する方法として、昆虫食やベジミートとともに、培養肉が注目されているのだ。

 だが、筆者が指す「生命線」とはそんな数十年先の話ではない。国際情勢によっていつ起きてもおかしくない日本の領海・領土が脅かされるという「安全保障リスク」のことだ。

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