時価総額4兆円のルナ、一夜で価値ゼロに ステーブルコインUSTはなぜドル連動が崩壊したのか金融ディスラプション(4/5 ページ)

» 2022年05月13日 06時30分 公開
[斎藤健二ITmedia]

デジタル版取り付け騒ぎ

 ルナの時価総額が減少するとどうなるか。「USTの総発行量よりもルナの時価総額のほうが低くなった。となると、USTを持っている人は、さっさと手放したくなる」(橋本氏)

  これはいわばデジタル版取り付け騒ぎだ。ステーブルコインがステーブルである理由は、いざとなったら発行元が同額の法定通貨に替えてくれるところにある。だから、ステーブルコインの発行額と同額以上の法定通貨が裏側にあれば安心できる。ところがUSTの場合、裏付けとなっているのが法定通貨ではなくルナという仮想通貨だった。これは、USTの特徴であると同時に最大の課題でもあった。ルナの価格が下落すると、USTの価値を保証できないからだ。

 価値が維持できないと思われたコインは、一斉に売られる。185億ドル分のUST保有者は先を争って売却に走った。市場で売却すれば1ドル以下でしか売れないので、1ドル分のルナに替えて、ルナを売却したわけだ。

 こうなるとUSTもルナも下落が止まらない。ルナの価格が下落すれば、ますますUSTの裏付け資産としての価値も低下し、「もしかしたらドルとの連動が回復するかも」と考えていた人の期待も裏切ることになる。

 5月12日夕方時点で、ルナの時価総額は6億8300万ドル(887億円)まで減少した。当然ながら、185億ドル分のUSTの裏付けとなるはずもない。UST価格は乱高下し、一時は0.3ドルまで下落、現在は0.5ドル前後となっている。

USTは復活できるのか

 今後、USTとルナはどうなってしまうのか。ルナを運営するテラの非営利組織「ルナ・ファウンデーション・ガード(LFG)」は、ルナの価格維持のためにビットコインを基金として保有していた。売り出したルナを原資に購入したもので、時価で35億ドルを越えるといわれる。

 ルナが急落した際にはこのビットコインを使ってルナを買い支え、構造的な弱点をカバーする計画だった。しかし、「買い支えには全然足りない。買い支えるという言い訳でポケットに入れられるようにビットコインを買っていたのではないか」と橋本氏は言う。別の報道では、すでに買い支えのためにビットコインを使い切ってしまったともいわれる。いずれにせよ、買い支えには十分ではなかったようだ。

 橋本氏は、ルナもUSTもこのまま価値がゼロまで落ちると見ている。USTとルナの価値はステーブルコインを実現することで、それが失われたなら何ら価値はないからだ。価格としては、最後に成立した取引額を表示するため、完全なゼロにはならず、0.1ドルとかそうした値段は残るだろう。しかし、実際に0.1ドルで買い手がつくわけではなく、流動性が失われた状態になる可能性が高い。

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