ツイッター買収で重要な役割を担うプライベート・デット市場フィデリティ・グローバル・ビュー

» 2022年05月17日 16時00分 公開
[Nick Haaijman, Nina Flitmanフィデリティ・インターナショナル]
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 米テスラの最高経営責任者(CEO)、イーロン・マスク氏による米ツイッターの買収は、この10年間で最も話題になりうるレバレッジド・バイアウト(LBO)案件の1つかもしれません。買収のために用意された130億ドルの融資は、買収資金の調達先としてパブリック(公開・上場)、プライベート(非公開)の両方の市場を効率的に活用できることを示すとともに、プライベート・レバレッジド・ローン市場が資金調達の大きな源泉であることも証明しました。

(写真提供:ゲッティイメージズ)

 マスク氏は2017年にツイッター買収のアイデアをツイートしており、予想外の買収ではありませんでした。それよりも一部の人を驚かせたのは、買収資金の調達方法です。ツイッター社とマスク氏が合意した買収額である440億ドルの調達先を深掘りすると、プライベート・デット市場が大規模なM&Aに欠かせない重要な役割を担っていることが、はっきりと読み取れます。

 まず、マスク氏が買収資金として確保した465億ドルの内訳を見てみましょう。英紙フィナンシャル・タイムズによると、465億ドルはマスク氏自身による210億ドルのエクイティファイナンス、マスク氏が保有するテスラ株を担保とした125億ドルのマージンローン、そのほか130億ドルの融資で構成されています。この130億ドルの内訳は、65億ドルのシニアローンと5億ドルのリボルビング・クレジット・ファシリティ、そして、有担保、無担保(おそらくハイ・イールド債券市場で調達される)のブリッジ・ファシリティそれぞれ最大30億ドルずつとなっています。

 マスク氏の資金調達パッケージの1つであるこの130億ドルの融資ストラクチャーは、プライベート市場が買収者にファイナンス資金を提供するという最も難しくて手間がかかる機能の主流になるにつれ、広く利用されるようになっています。09年以降にLBOを実施した欧州の借り手の60%以上は、少なくともファイナンスの一部として、プライベート市場を利用していました。この場合、借り手はシニアローン、シニアローンに劣後するセカンド・リーン・ファシリティ(第二順位抵当権付きローン)、メザニンデットを組み合わせるケースが増えています。21年は欧州の借り手のおよそ44%がシニアローン市場のみで資金を調達し、さらに17%はシニアローンとハイ・イールド債の両方を利用していました。

LBOを実施した欧州の借り手の資金調達手段(出所:LCD、フィデリティ・インターナショナル、2022年5月)

 このことは、特にハイ・イールド債券市場とともに利用される場合に、グローバルのプライベート・レバレッジド・ローン市場がいかに深化しているかを物語っています。マスク氏の65億ドルのシニアローンは確かに巨額ですが、プライベート市場では最近、この金額を上回る案件もありました。プライベート・エクイティ会社のブラックストーン、カーライル、ヘルマン&フリードマンは21年、米医療用品大手のメドライン・インダストリーズの株式の過半数を340億ドルで取得するため、78億ドルのレバレッジド・ローンと65億ドルの有担保、無担保のハイ・イールド債券の発行で資金を調達しました。欧州では独ティッセンクルップ・エレベーターの買収資金103億ユーロのうち、55億ユーロがタームローンで手当てされました。

 欧州のローン市場は米国と比べて小さいですが、情報サービス会社レバレッジド・コメンタリー・アンド・データ(LCD)によると、21年に完了した取引のうち10億ユーロ以上の取引は市場全体の20%と、わずか4%だった08年と比べて大きく増加しています。

 大規模な取引は、新しいファイナンシングにアクセスできる機会を増やし、より多くの流動性を確保できる柔軟さを与え、公開市場の代替投資先としてより発展できる環境をもたらします。プライベート・デットはまた、より高い弁済順位とより低いデフォルト率を有するデットも提供します。プライべート・デットは、その取引がプライベート・エクイティ大手によるものなのか、億万長者の起業家によるものなのか、“基本的に自己資金を有していない”と公言する人によるものなのかに関係なく、話題を集める“メガディール”に投資できる興味深いオルタナティブ投資先なのです。

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