ウクライナ戦争が引き起こす企業と投資家の社会的、倫理的ジレンマフィデリティ・グローバル・ビュー(1/3 ページ)

» 2022年04月21日 07時00分 公開
[Jenn-Hui Tan & Gabriel Wilson-Ottoフィデリティ投信]
fidelity

 衣服や食料をロシア人に売ることは、人権を守ることなのでしょうか。それとも、戦争の資金源につながるのでしょうか。これは、企業がいま直面している複雑な倫理的問題の、ほんの一例です。投資家もまた、顧客の最善の利益のために行動しながらも、正しい行いをしなければなりません。簡単な答えはどこにもないのです。

 この記事では、戦争によって生じたサステナビリティ(持続可能性)と倫理的な問題に対して組織がどう取り組もうとしているのか、大まかに見ていきます。副次的効果が明らかになるにつれ、今後数カ月の間でさらに多くの問題が表面化するでしょう。私たちはこうした問題についても、取り上げる予定です。

(写真提供:ゲッティイメージズ)

ロシアからの撤退

 ウクライナ戦争における最も大きな問題は、企業や貿易活動のロシアからの撤退です。欧米政府がロシアの個人や機関に制裁を科す一方、多くの欧米企業は、道徳的な理由から自主制裁を与えてきました。こうした流れは、ESG(環境・社会・ガバナンス)に関する国家のリスクがグローバルで見直され、企業や投資家が考慮すべき、価値観に基づく事業リスクの重要性を高める契機となるかもしれません。

 ウクライナに対するロシアの行動は、多くの企業にとって決定的なものとなりました。マクドナルドやアップルといった、よく知られたブランドの多くがロシアでの事業をすぐに停止しました。ビジネスと外交を目的に冷戦末期に初めてロシアで飲料を販売したコカ・コーラも、撤退しました。イェール大学経営大学院によると、プーチン大統領が2月に戦争を始めて以降、450社以上の企業がロシア経済からの撤退を表明しました。中には、ビジネスへの影響が大きいはずの企業も含まれています。

 ESGと倫理的な配慮の間でどうバランスを取るべきか、難しい判断を迫られる企業もあります。

 カジュアル衣料チェーンの「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは、「衣料は生活に欠かせない」との考えから、当初はロシアでの事業を継続する予定でした。しかし、世論の圧力を受けて一時的に店舗を閉鎖しています。ファーストリテイリングのライバルで、「ZARA(ザラ)」ブランドなどを展開するインディテックスも、一時的に店舗を閉鎖しました。

 一方で、日用品大手のレキットベンキーザーは、世論の反発を受けながらもロシアでの事業を継続しています。ロシアで勤務する1300人のスタッフへの安全配慮義務とヘルスケア用品に対する消費者のニーズを理由に挙げています。いずれのケースでも、企業が社会的、倫理的な問題に対してバランスを取ろうとする姿勢が示されています。

 行動しないことで非難を浴びる企業もあります。ルノーは、ウクライナ大統領からロシアでの事業継続を名指しで非難された企業の1社で、最近になって事業の停止を発表しました。ツイッターで非難の嵐に遭ったネスレはその後、ロシアでのチョコレートやコーヒーの販売を停止しました。しかし、乳児用食品などの必需品の販売は続けています。

       1|2|3 次のページへ

© フィデリティ投信株式会社 All Rights Reserved.