ウクライナ戦争が引き起こす企業と投資家の社会的、倫理的ジレンマフィデリティ・グローバル・ビュー(2/3 ページ)

» 2022年04月21日 07時00分 公開
[Jenn-Hui Tan & Gabriel Wilson-Ottoフィデリティ投信]
fidelity

フィデリティの対応

 フィデリティ・インターナショナルは当面の間、ロシア・ベラルーシ関連証券の新規・追加購入を全社的に禁止しています。そして、顧客の利益を保護し、意図しない結果を軽減するための思慮深い方法で可能かつ適切と判断した場合、保有証券を削減する選択肢を検討します。引き続き事態を注視し、状況に重大な変化が生じた場合には、当社の決定を適宜検討します。

 流動性はロシア、ウクライナ、ベラルーシの金融商品に影響を及ぼしており、私たちは、リスク特性の変化を追跡する機能を強化しています。また、さらなる金融制裁だけでなく、利子や配当金の支払いに関するテクニカルな問題を引き起こすと考えられる既存の制裁の副次的影響にも、引き続き注意を払っています。

 企業に対しては、事業運営やサプライチェーンを通じたロシア、ベラルーシ、ウクライナに関連するリスクについて把握するべくエンゲージメントを実施しています。投資先企業にも、自社の製品やサービス、事業を通じ、戦争の影響を受けた人々を可能な限り支援するよう呼び掛けています。

 最後に、私たちは今後数カ月の間、制裁の適用がガバナンス構造にどのような影響を与え、企業の資本構成がどう変わっていくのか、注目しています。倫理的な動機なのか、資本へのアクセスのためなのかなど、その理由も含めて注視していきます。

ESGと国防費の支出

 戦争で浮き彫りになったもう1つの問題は、武器への投資です。多くのファンドは、それぞれの価値観に基づき、タバコや物議をかもす軍需産業などの分野を投資対象から除外しています。

 今般の戦争を踏まえ、国防費の支出がサステナブルな経済活動に分類されることへの適格性について、議論が巻き起こっています。しかし、たとえ国防のための通常兵器が投資除外リストから外れたとしても、ESGファンドに組み入れられることはないでしょう。さらに言えば、ESGファンドの分類の土台となる各国・各地域の「グリーンタクソノミー」や「ソーシャルタクソノミー」に含まれる可能性も低いと考えられます。

 議論の結果がどうであっても、アセット・マネージャーは顧客と密接に連携し、どんな資産配分が適切か、その分野でのESG投資に限界があるのかどうかを判断するでしょう。

ネット・ゼロへの道

 エネルギーの移行が再び脚光を浴びています。温室効果ガスの排出量削減に関する「国が決定する貢献」(Nationally Determined Contributions, NDCs)の強化で多くの国が合意した国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)からわずか数カ月で、欧州やほかの国々はロシアへの依存を減らそうと化石燃料の代替資源を求めて奔走しています。

 BPやシェルといった石油メジャーはロシア事業から撤退し、欧州各国は停止していた石炭火力発電所を再稼働させる必要に迫られています。欧米政府は物価を安定させ、景気後退を防ぐために、石油輸出国機構(OPEC)に原油・天然ガスを増産するよう求めています。多くの人々はすでに物価の上昇に直面しており、各国政府は自国民を守ろうとするでしょう。そのため、短期的には温室効果ガスの排出量は増えると考えられます。

 しかし、長期的には、エネルギー安全保障を強化するため再生可能エネルギーへの切り替えが進むと見ています。原油・天然ガスからの脱却はESGにとって必要不可欠です。とはいえ、各国政府はネット・ゼロ(温室効果ガスの排出量実質ゼロ)の推進と安全で信頼できるエネルギー供給との間でバランスを取る必要があります。

図表:EUの脱ロシア依存に向けたIEAプラン(出所:国際エネルギー機関(IEA))

 これが意味するところは、(1)原子力発電の役割の拡大、(2)化石燃料への短期的な投資、(3)風力・太陽光などの既存技術の迅速な展開、(4)サプライチェーンの持続力構築に向けた注力、そして(5)再生可能エネルギーの安定性を確保するための技術開発の進展です。

 その結果、水素製造やエネルギー貯蔵に関連する企業が注目され始めています。しかし、燃料価格の高騰が再生可能エネルギーの競争力を高めたとはいえ、ネット・ゼロへの道のりは険しいと考えています。

© フィデリティ投信株式会社 All Rights Reserved.