鉄鋼業界におけるESG経営の試み 鉄鋼生産の脱炭素化フィデリティ・グローバル・ビュー(1/3 ページ)

» 2022年03月24日 07時00分 公開
[James Richards & Ben Traynorフィデリティ・インターナショナル]
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 風力タービンから電気自動車まで、カーボン・ニュートラルを目指す経済は引き続き鉄を必要とします。しかし一方で、その生産は気候変動を緩和するために削減が求められている二酸化炭素を大量に排出します。当社は、二酸化炭素を直接的に排出する鉄鋼メーカーや資源の採掘業者と定期的にエンゲージメントを実施し、鉄鋼メーカーとは排出削減計画について、採掘業者とは鉄鋼メーカーの鉄鉱石加工などから生じる間接的排出について意見交換をしています。

イメージ(写真提供:ゲッティイメージズ)

 本稿の内容は以下の通りです。

  • 脱炭素化の必要性
  • カーボン・ニュートラルへの取り組み
  • 決して安くはないコスト
  • バリューチェーンへのエンゲージメント
  • 先導役を務める

 ハンブルク港の西端、エルベ川の岸に点在するクレーンとコンテナターミナルの横で、人類最古の産業プロセスの1つに革命を起こす実験が進行中です。これが成功すれば、世界の二酸化炭素排出量の5-10%を削減できる可能性があります。

 外から見ると、旧ハンブルガー・シュタールヴェルケの工場は、古い重工業の典型のように見受けられます。蒸気の雲が煙突から転がり落ちて暗い建物の上の空気中に漂い、風力タービンの羽根によってゆっくりと広がっていきます。

 ここは、ハンブルグの水素プロジェクトの拠点になっています。このプロジェクトを遂行しているのは世界最大の鉄鋼メーカーである、アルセロール・ミタルです。同社は、鉄鋼の生産プロセスから排出される炭素を除去し、いつの日か再生可能エネルギーで電力を供給できる産業規模の実証プラントを建設することを計画しています。

脱炭素化の必要性

 ハンブルグの水素プロジェクトは、アルセロール・ミタルをはじめとする鉄鋼メーカーが脱炭素化を目指している一例にすぎません。他には、炭素回収技術や電気分解によるカーボン・ニュートラルな生産プロセスの構築、などが含まれます。

 これらの脱炭素化への対応は鉄鋼業界における喫緊の課題です。世界で生産される鉄鋼1トンにつき、二酸化炭素が2トン近く発生しています。金属をリサイクルするのではなく、鉄鉱石を精錬することで生産する鉄鋼の割合は、依然として2050年の生産量の半分以上を占めると予想されています。そのため、効果的で低炭素な生産方法を開発できる企業が、長期的な視点から、この業界の勝者となるのではないかと見られています。

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