鉄鋼業界におけるESG経営の試み 鉄鋼生産の脱炭素化フィデリティ・グローバル・ビュー(3/3 ページ)

» 2022年03月24日 07時00分 公開
[James Richards & Ben Traynorフィデリティ・インターナショナル]
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バリューチェーンへのエンゲージメント

 当社では、鉄鋼メーカーと話をする同じアナリストが、原材料の供給側である鉄鉱石や石炭の採掘業者ともエンゲージメントを実施します。鉄鋼生産は、企業のバリューチェーンのどこか他の部分(サプライヤーや製品ユーザーなど)で間接的に発生する、スコープ3の温室効果ガス排出量の大部分を占めているため、採掘業者はカーボン・ニュートラルな鉄鋼生産に関心を持っています。

※スコープ1の排出は、企業が所有または管理している排出源から直接発生するもの。スコープ2の排出は、他社から供給された電力、蒸気、熱または冷却などの使用により企業が間接的に発生させるもの。スコープ3の排出は、バリューチェーンの他の部分(企業活動の上流・下流)で間接的に発生するものを対象とする。例えば顧客が自社製品を使用することによって発生するもの、などが該当する。これは、採掘業者自身のプロセスにより生み出される直接的な排出量を相対的に小さくする形となる。


グラフ1:スコープ3は採掘業者にとって重要なカテゴリー 出所:フィデリティ・インターナショナル作成、2021年3月。BHPとサウス32については2020年、その他は2019年のデータ

 スコープ3への取り組みは、採掘業者との議論の大きな部分を占めています。例えば、BHPの経営陣との最近の電話会議では、中国最大の鉄鋼メーカーであるChina Baowu(宝鋼集団)との提携について話し合いました。両社は技術的な知識を共有し、製鉄プロセスの低炭素化の研究に資金を供給する計画を持っています。BHPはまた、マサチューセッツ工科大学(MIT)からスピンオフした米国の新興企業ボストン・メタルにも投資しています。同社は、今日高炉にて炭素を用いて行われている鉄鋼生産のプロセスを、炭素ではなく電子が酸化鉄から酸素を除去する溶融酸化物電気分解(MOE)というプロセスへと転換することを目指しています。

先導役を務める

 鉄鋼会社や採掘業者とのエンゲージメントは、両セクターにおける個別企業の見通しを評価する事に役立ち、排出量削減に取り組む他の重工業への洞察も与えてくれます。当社は環境、社会、ガバナンス(ESG)の問題について声を上げていることもあり、現在は、鉄鋼業界も含むESGを積極的に進めてこなかった企業からも、改善に取り組むための意見を求めるべく、当社に連絡が入ります。具体的な内容としては、優先順位をつけて、今取り組むべき最重要課題を洗い出すことや、取締役選任に伴う面談の支援、といったことが含まれます。

 鉄鋼生産の脱炭素化への挑戦は一企業の動きで進んでいくものではありません。それには、鉄鋼メーカー自身のみならず、その顧客、そして政策立案者といった複数の利害関係者の協力が必要です。当社は投資家として、この取り組みが企業の重要課題であることを引き続き提唱することにより、その役割を果たしてまいります。

フィデリティ・インターナショナル

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【ESGコラム】鉄鋼業界におけるESG経営の試み〜鉄鋼生産の脱炭素化〜


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