変革の財務経理

売上1000万円以下の免税事業者も、インボイス制度に登録したほうが良い? メリットとデメリットを解説インボイス制度Q&A

» 2022年06月03日 07時00分 公開
[村井隆紘ITmedia]

この記事について

2023年10月から適用されるインボイス制度。免税事業者がインボイスを発行するためには、課税事業者になるための手続きをしなければなりませんが、登録にはメリットとデメリットがあるようです。解説は、税理士法人クラウドフォーカス代表の村井隆紘氏。

Q 免税事業者は、適格請求書(インボイス)発行事業者として登録し、課税事業者になったほうが良いのでしょうか。

A 正直に申し上げて非常に判断が難しいところにはなります。適格請求書発行事業者の登録を行うことによるメリットとデメリットは、大きく次の通りです。

解説:メリットとデメリットは?

メリット

(1)取引を行う課税事業者側で継続して仕入税額控除を行えるため、今後も継続的な取引を見込むことができる。

(2)自らも課税事業者として仕入税額控除を受けることができるので、建物や機械など金額の大きな設備投資があった場合には消費税の還付を受けられる可能性がある。

デメリット

(1)今まで納付義務が無かった消費税について納める義務が発生するため、課税売上のうち10/110≒約9%が実質的に目減り(=減収)してしまう。

(2)消費税の申告義務(法人:決算日から2カ月以内、個人:翌年3月15日まで)が発生するため、記帳を含め事務的な負担が増加する。

(3)原則として、課税事業者を選択してから2年間は免税事業者に戻ることができない。


 メリットの(1)以外は、いずれもインボイス制度の適用前と変わりません。つまり今回のインボイス制度の改正にあたっては、メリット(1)の部分にどれだけ重きを置くかが判断基準になるといえるでしょう。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 まず、元から事業者との取引が少なく、最終消費者との取引がメインとなる事業者(接待用でない飲食店、八百屋、美容院など)は相手方で仕入税額控除を取ることはほとんどないかと思いますので、あえて課税事業者を選択するメリットは薄いでしょう。従って、以下の論点では事業者との取引がメインとなる免税事業者を前提とします。

 ただし取引を行う課税事業者が、仕入税額控除を取れずとも免税事業者との取引を続けるか、仕入税額控除を取れるインボイス発行事業者との取引にシフトするかは、免税事業者側からは推測するほかなく、登録すべきか(課税事業者を選択すべきか)の判断は非常に困難です。

 判断を難しくさせる要因は他にもあります。2023年10月1日のインボイス制度開始から6年間設けられている経過措置がその一つです。具体的な内容は次の通りです。

23年10月1日〜26年9月30日

免税事業者からの仕入れにつき、仕入税額相当額の80%が控除可能

26年10月1日〜29年9月30日

免税事業者からの仕入れにつき、仕入税額相当額の50%が控除可能


 これにより、免税事業者から30万円(税別)の仕入れを行い、50万円(税別)で販売したときの消費税額は次のように変わります。

従来(〜23年9月30日)

5万円(受け取った消費税)−3万円(支払った消費税)=2万円(納める消費税)

23年10月1日〜26年9月30日

5万円(受け取った消費税)−2.4万円(支払った消費税の80%)=2.6万円(納める消費税)

26年10月1日〜29年9月30日

5万円(受け取った消費税)−1.5万円(支払った消費税の50%)=3.5万円(納める消費税)

29年10月1日〜

5万円(受け取った消費税)−0円(仕入税額控除不可)=5万円(納める消費税)


 計算は複雑になるものの、23年10月以降も免税事業者からの仕入れた際の仕入税額が完全に控除できなくなるわけではなく、段階的に控除できる額が少なくなっていきます。免税事業者としては、特に80%の仕入税額控除が取れる最初の3年間を有効に使って取引先の動向を見たり、協議を行ったりするのも良いかと思います。

 最後に、課税事業者を選択した場合に税額計算上有利になる可能性のある制度を紹介したいと思います。基準期間(原則として2期前)の課税売上高が5000万円以下の場合、簡易課税制度という計算方式を選択することが可能です。こちらは売上を種類に応じて第1種から第6種までの6つの事業区分に分け、「みなし仕入率」を利用して消費税額を計算するというものです。上記の数値例を用いて簡単にご紹介します。

  • 課税事業者が30万円の仕入れを行い、50万円で販売した。この事業区分が第2種(小売業)にあたる場合、みなし仕入率は80%となるため……
  • 5万円(受け取った消費税)−4万円(みなし仕入率で計算した仕入税額控除:5万円×80%)=1万円(納める消費税)

 このように、業種や仕入の金額にもよりますが、消費税額が通常の計算より有利になる場合があります。また売上から割合で税額の計算を行うため、仕入税額控除の計算が容易になりデメリットの(2)で挙げた事務的な負担も緩和されます。制度の詳細や細かな要件、届出等については割愛しますが、こちらの制度もメリットとデメリットがありますので、税理士などとご相談の上、シミュレーションを行うと良いでしょう。

著者紹介:村井隆紘

税理士法人クラウドフォーカス代表税理士/株式会社クラウドパートナーズ代表取締役

公認会計士・米国公認会計士・税理士として、大手監査法人、大手金融機関に勤務後、クラウド会計を専門とする会計事務所「ユアクラウド会計事務所」を創業。現在は、税理士法人クラウドフォー代表として中小法人のクラウド会計導入やDXを推進するとともに、株式会社クラウドパートナーズの代表として、専門職な新しい自由な働き方を提案する会計事務所専門の転職サービス「ユアキャリア」を展開している。

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