「サイゼリヤで満足=貧しい」のか 残念ながら“事実”であるワケスピン経済の歩き方(5/6 ページ)

» 2022年08月09日 09時12分 公開
[窪田順生ITmedia]

国内外で「客単価」の差が縮まる

 サイゼリヤ創業者の正垣泰彦氏は、「良い商品というものは食べる側にとって適切な価格と品質でなければいけない」という理念を掲げて、「値上げは絶対にしない」ということを宣言している。

 個人的には素晴らしい理念だと思うし、それを単なる精神論だけではなく、客観的なデータや科学的思考に基づいて実行してきたことが今のサイゼリヤの大成功につながっているのは間違いない。が、一方でそれが実現できたのは、低賃金であっても文句を言わず一所懸命働く、「羊のように大人しい労働者」のおかげであることも忘れてはいけない。

 低賃金労働者が世の中に増えれば増えるほど、「安い外食」に消費者が殺到するという「安いニッポンの永久機関」ともいうべき経済サイクルが、巨大外食チェーンの成長を下支えしているのだ。

 それを示すのが「客単価」だ。

 決算資料によれば、サイゼリヤの18年中間決算時の国内の客単価は734円で、同時期の海外店舗の客単価は557円で、その差は177円もあった。しかし、22年中間決算時の国内の客単価は770円、海外は693円、その差は77円まで縮まっている。この勢いでいけば、海外の客単価に追い抜かれる日も近い。

 海外の数字を見ると、客数はほどんと変わっていないので、これは海外店舗のある中国や香港は日本よりはるかに賃金が上がっていることも無関係ではないだろう。賃金が上がっているので消費も上がっており、それが客単価の急激な上昇にもつながっているのだ。

サイゼリアは都市部で人気が高い(出典:LINE)

 それは裏を返せば、日本はどんどん貧しくなっているということだ。こういう事態を避けるため、実は「最低賃金の継続的な引き上げ」という、諸外国では常識となっている「経済政策」を進めていくことが重要だ。

 サイゼリヤのような大企業ですら、ちょっと目を離せば、最低賃金スレスレで労働者を働かせようとする。日本企業の99.7%を占める中小企業ではなおさらだ。労組や株主という「外部の賃上げ圧力」がない中で、家族を役員にして、ブラックボックス経営をしているようなオーナー社長が、最低賃金労働に依存してしまうのは当たり前なのだ。

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