一体どういうことか説明しよう。例えば、筆者はサイゼリヤに行くと、マルゲリータピザとペンネアラビアータをよく注文する。2つ合わせて800円。この価格であの味というのは、消費者的には最高である。というわけで、戦争が起きようが、円安が進行しようが、未来永劫(えいごう)この2つで800円という価格を守っていただきたいと切に願っている。
しかし、それを実現するのは容易なことではない。世界的に物価が上昇しているので、それをチャラにするほど原料調達をさらに安くしないといけない。「自社農園だ」「独自ルートだ」といったところで、石油も上がっているので輸送費も高くなる。サプライチェーンの効率化などの努力には限界があるのだ。
そんな中で、これまでと変わらぬ品質、変わらぬ量をマルゲリータピザとペンネアラビアータを「800円」で提供し続けようと思ったら、さらなるコスト圧縮が必要だ。スケールメリットを出すには拡大路線を続けなければいけないので、店舗数は減らせない。となるとあと残っているのは、一番削りやすいところしかない。そう、人件費だ。
現状もそうだが、高校生などできる限り最低賃金で働かせられる労働者をフル活用して、「高品質・低価格」を死守していくのである。
この「企業努力」こそが、30年以上にわたって「安いニッポン」を進行させてきた「犯人」だ。日本全国で1000店舗以上も展開していて、地域内の個人経営の飲食店にも大きな影響を与えている巨大チェーンがアルバイトの時給を最低賃金スレスレに抑えれば当然、それは地域内の賃金にも影響を及ぼしていく。
例えば、サイゼリヤに客を取られるライバルの外食チェーンや、地場のチェーンもサイゼリヤに負けじと「高品質・低価格」を打ち出せば、サイゼリヤ以上に人件費を圧縮していくしかない。サイゼリヤのように自社農園もなければ独自の食材調達ルートもないのだから当然だろう。
われわれ消費者は「サイゼリヤは企業努力で高品質・低価格を実現していて庶民の味方だな」と無邪気に喜んでいるが、実はその美しいストーリーの裏には「低賃金労働者」が隠れている。つまり、われわれがたった400円で、ミシュランシェフもうなるようなおいしいパスタを食べられるのは、年収200万円にも満たないワーキングプアを安定的に生み出していく「低賃金ビジネスモデル」のおかげなのだ。
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