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日立は、グループの37万人にいかにしてサステナビリティの目標を共有したのかサステナビリティ推進本部長に聞く(1/3 ページ)

» 2023年02月15日 09時00分 公開
[中西享ITmedia]

 日本を代表するグローバル企業の日立製作所が、サステナブルな社会の実現を目指そうとしている。

 製品によるCO2削減への貢献を「削減貢献量」として算出し、2024年度までに1億トンを目指すなど環境問題に積極的に取り組む。

 環境対策を含むサステナビリティの分野で新しいルールが生まれるなど開示要求が毎年強まる中、グループ企業を含めた約37万人(2022年3月31日時点)の従業員に対し、目標をいかに共有し、実現させていくのか。

 前編「日立のサステナビリティ推進本部長に聞く 2024年度までにCO2の1億トン削減に貢献」に続き、津田恵サステナビリティ推進本部長に聞いた。

photo 津田恵(つだ・めぐむ)1969年生まれ。91年に大阪ガスに入社、2017年に同社CSR・環境部長、20年同社イノベーション推進部長、21年7月に日立製作所に入社、サステナビリティ副本部長、22年4月から同社 理事、サステナビリティ推進本部長。京都市出身

企業価値につながっていることを伝える

――投資家など、社会の目が環境対策について厳しくなってきていると感じていますか。

 環境関連で話を聞きたいという投資家からのお申し出は増えています。初めは「勉強がてら」という感じでしたが、どんどん詳しくなられ、難しい質問も増えてきたり、より多くのデータを求められたりしてきている印象です。

 いかに分かりやすく、日立の貢献を投資家の方々にお伝えするかが重要になっていると感じています。例えば、自分たちの足元をきれいにする「GX(Green Transformation) for Core」と、お客さまや社会の脱炭素化に活用していく「GX for Growth」で、まずは足元をきれいにしてから、そこで培った知見を生かしてお客さまに展開していくという話や、どのような順番で2030年、50年までやっていくのか、というロードマップをしっかりお見せしなければ根拠がないと思われてしまいます。長期の道筋を分かりやすく説明することが必要です。

 あるいはCO2を減らすことが、どのように財務価値や企業価値につながっているのかを伝えることも大事です。例えば、省エネ投資をすることでコストが減っていたり、日立が社会にとって良い取り組みをしていると評価されることで金利を抑えられたりします。いかに、非財務的なものが財務価値に変わっていくか、つながりを見せるのが投資家の関心事項でもあり、しっかり説明する必要があります。

photo 「GX(Green Transformation) for Core」(日立製作所のWebサイトより)

――そうした説明をすることで、具体的にどんな成果が出ましたか。

 企業価値が伸びると申し上げましたが、22年6月に実施したグリーン戦略の説明では、企業価値の向上に寄与するポイントを6つ上げています。再エネ設備の導入などによる「効率性の向上」や、規制に対してレジリエントに対応できる「規制リスクマネジメント」などです。

 投資家の方は、温室効果ガスを削減することが日立の財務情報にどう転換されるのかを、数値として求めていらっしゃいます。日立は、京都大学の研究室と共同研究をしていて、どれだけの資本を投資すればどれだけのリターンがあるのかを示すROIC(投下資本利益率)という指標について、研究成果を出しています。

 日立がサステナビリティの取り組みをしなかった場合と比較すると、ROICの押し上げ効果が約1%あったことを明らかにしています。非財務情報の開示を進めるのはトレンドですが、それに加えて、財務情報にもROICの押し上げ効果として影響があることを明らかにできているのは、業界では珍しい取り組みだと認識しています。

photo マテリアリティを構成する15のサブ・マテリアリティと目標 (以下、資料は日立製作所のWebサイトより)

COP27のポイント

――22年の11月にエジプトで開催された国連気候変動枠組条約の締約国会議(COP27)に出席しました。印象はどうでしたか。

 22年は新興国での開催だったので、21年とは打って変わって「先進国はそういうけれども、もともとは先進国が出したCO2だ。新興国にとっては、省エネに取り組むにしても資金が必要だ」という雰囲気でした。

 これから発展していく新興国は、資金をどうすればよいのかにフォーカスされていました。1年でガラッと雰囲気が変わり、目標の積み増しどころではなく足元をどうするのか、気候変動の悪影響による損害は誰が保障してくれるのかという、いわゆる「Loss & Damage(損失と損害)」や、基金を設立するなどの新興国の対応に議論の時間が割かれていました。全体としてはそういった雰囲気でしたが、パリ協定で既にルールが定められていて、現在は実行のフェーズに入っています。

 昔は、国のパビリオンのみでしたが、現在は業界ごとなどさまざまなパビリオンが出てきて活発な議論がなされていて、どうやって目標に向けて取り組んでいくのかの実行フェーズにある印象を受けました。

 また、自社をきれいにするのは当たり前で、お客さまや調達先などバリューチェーン全体を含めたScope3をどうするかという声もたくさん聞こえてきました。

――Scope3での議論に入ってきているのですね。

 お客さまの先や調達先など自社以外ではデータも取りにくいので、データをどのように網羅するか、また、その透明性などを確保するためのルールをどうするかなど、極めて実行に近いところの議論もなされていました。

 ジャパンパビリオンというものがあり、日本の技術が展示されている中で日立も出展をしていました。経済産業省の主催で、前編でお話しした「削減貢献量」を理解しようというセッションもあり、大盛況でした。

 削減貢献(前編参照)というコンセプトは、まだまだ分かりづらいところなので皆さん興味を持っていました。いろいろな企業が集まってサステナブルな社会にするために何をすべきかを議論するWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)という団体が、23年に削減貢献量のガイドラインを出すことを、このセッション内で発表しました。

――現在の日本企業を見渡してみて、悩んでいるポイントはどこだと思いますか。

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