VTuberは年齢にとらわれず活動できる。活動可能な人材・年数の幅が広いことが、LTV(顧客生涯価値)の上昇を生み、一見高めに見える株式評価を正当化しているといわれる。
その他、VTuber事務所の高いバリュエーションを正当化する根拠として、VTuberはテレビ局におけるアナウンサーや、芸能事務所所属のタレントなどと異なる点が挙げられる。他事務所への移籍が難しく、ヘッドハンティングされるリスクが小さい点は安定成長の要因であると解説されることも多い。
VTuberの外見を形成する2D/3Dモデルに関する知的財産権や、YouTubeやTwitterといったSNSの管理権がVTuber事務所側に帰属することがほとんどであるからだ。VTuberが他の事務所に移籍する場合には、名前だけでなく外見やSNSアカウントを全て放棄して、ゼロからの再出発が必要となるのである。
しかし、実際にVTuber業界に身を置いた筆者から見ると、こうした「定説」は今、岐路に立たされているように思われる。ここで、にじさんじ、ホロライブに比肩しうる影響力をつけてきたヴィショージョ(VShojo)を交えて解説したい。
ヴィショージョはVTuber事務所を運営する米国発の新興企業で、創立者はライブストリーミングプラットフォーム「Twitch」を運営する企業の創設にも携わったジャスティン・イグナシオ氏。これまで、活動実績のあるVTuberや、VTuber経験者をスカウトすることによってグループとしての影響力をつけてきた。主に海外市場においてホロライブと競合するビジネス展開を繰り広げている。
同社は22年7月にヴィショージョジャパン(VShojo Japan)を設立。所属VTuberとして「kson」と「飴宮なずな」のデビューを発表した。ksonはかつて、ホロライブ所属として年間1.5億もの投げ銭を獲得したこともある「桐生ココ」の“魂(いわゆる中の人)”と同一の魂であることが暗黙の事実となっている。
ヴィショージョジャパンのアドバイザーには、いちから(現エニーカラー)の元COOであり、にじさんじの隆盛を支えた岩永太貴氏が就任している。そのため、飴宮なずなについても、元ホロライブメンバーであったという観測が根強い。このように、ヴィショージョは既存業界において重要な地位を占めた人材を積極的に登用することで先行2社のシェアに喰らいついている状況だ。
そんなヴィショージョは、22年3月の時点でシードラウンドにて約13億円もの資金調達に成功している。当時の時価総額は推定でおよそ50億〜100億円、足元ではそれ以上に企業価値を高めている可能性もある。
また、にじさんじを引退した複数のVTuberが、個人活動するVtuberや顔出しの配信者として新しく活動する動きも見逃せない。事務所が変わったり個人で独立したりしている者の多くは著名事務所時代に獲得したファンを維持した状態で新しく活動できる。そのため、モデルデータがなくてもすぐ、かつてのような厚いファン層の獲得に成功している。
ここ2年ほどで新たな事務所とのVTuber囲い込み競争や、VTuber自身の移籍・独立といったセカンドキャリアが整備されつつある点は、エニーカラーとカバーにとって、かつてと異なる点だ。「魂(中の人)」にもファンがつく現在の市場環境において、外見のモデルやSNSアカウントの権利を事務所が押さえていることは、移籍や独立に対する経済的・心理的障壁としてもはやそれほど有効でなくなってきているといえないだろうか。
同様の動きは、所属YouTuberの離反によって、時価総額が1000億円超から150億円程度まで減少したUUUMでも見られた。
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