搾りたての「牛乳」を、なぜ廃棄しなければいけないのか過去最悪レベル(2/4 ページ)

» 2023年02月24日 08時00分 公開
[日沖博道INSIGHT NOW!]
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 昨年11月、国は生乳の生産抑制のための緊急支援事業を発表した。牛を早期淘汰した場合、1頭あたり15万円の助成金を国が交付するというものだ。これにより4万頭の削減を目指しているらしい。

 この国の方針は各地の農協に打診された時点で大いに反発を呼んでいる。昨年9月に釧路市で開かれた集会では疑問や反対の声が次々と噴出していたそうだ。「数年前の生乳不足時に、増産要請に応える形で投資をしたのに梯子を外され、自己責任と切り捨てられてしまっては、これから先、誰が(返却するのに掛かるのが)30年もの借金を背負って設備投資を決断できるのか」というのが代表的な声だ。きわめて当然だ。

 酪農家と、需要家である乳業メーカーの取引関係はシンプルではない。個々の酪農家が「経営が苦しいから」と納入価格を簡単に引き上げることはできない、特有の業界事情があるのだ。牛乳やバターなどの原料となる生乳は、地域別に農協などが作る指定団体が集め、全国の乳業メーカーに販売する「一元集荷体制」が組まれている。乳価は指定団体と乳業メーカーの交渉で決まるため、酪農家は妥結した価格を受け入れるしかないのだ。

 酪農家の経営悪化などを受け、昨年11月から飲用牛乳向けの乳価は既に10円値上げしており、バターなどの加工向けも今年の4月から10円値上げとなる予定だが、赤字を解消するにはほど遠いという。

 しかし乳業メーカーには産業のサプライチェーンを維持する責任があるはずだ。自分たちが国を動かしておいて、増産に協力してもらった北海道の酪農家たちを「自己責任だ」と切り捨てるような仕打ちを示すのなら、次の供給不足の波が来た時にはリスクを取って増産に協力してくれる酪農家なんて現れるはずがない。

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