搾りたての「牛乳」を、なぜ廃棄しなければいけないのか過去最悪レベル(1/4 ページ)

» 2023年02月24日 08時00分 公開
[日沖博道INSIGHT NOW!]
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日沖博道氏のプロフィール:

 パスファインダーズ社長。30年にわたる戦略・業務コンサルティングの経験と実績を基に、新規事業・新市場進出を中心とした戦略策定と、「空回りしない」業務改革を支援。日本ユニシス、アーサー・D・リトル等出身。一橋大学経済学部、テキサス大学オースティン校経営大学院卒。


 ご存じだろうか。日本の生乳の生産の半分以上を担う酪農王国・北海道が今、過去最悪レベルともいわれる「牛乳ショック」に直面していることを。

 北海道の酪農家では、生乳の廃棄処分をせざるを得ない事態が起きている。生乳の生産量を減らすよう農協から求められ、900頭あまりの乳牛を抱える牧場だと1日 1〜2トンの生乳の廃棄を始めているそうだ。

 搾りたての生乳をなぜ廃棄しなければならないのか。その背景にあるのが国の政策だ。バター不足が問題になった(ご記憶の方も多いかと思う)ことを契機に2014年、国は生乳の生産を増やすため補助金をつけて大規模化を促した(「畜産クラスター事業」と呼ばれる)。

 国の後押しを受けて道内の酪農家らは大型投資を進め、増産体制へと舵を切った。こうして全国の生乳の生産は733万トン(2014年度)から764万トン(2021年度)へと増加に転じた。

 しかし2020年からは新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、まず学校給食が減り、さらに外食や観光需要が落ち込んだことで、今度は一転して生乳の供給が過剰となった。

 乳業メーカーは、日持ちのしない生乳を、保存が利く脱脂粉乳に加工することで当面の対応をした。しかし脱脂粉乳の在庫量が昨年最高水準に達したため、酪農家は生産の抑制をしなければならない事態に陥ったのだ。

 牧場経営者の方は「やるせない。なんで捨てなくちゃならないんだ。増やせ増やせと言われて一生懸命搾っていたのに…。工業製品と違って、簡単に減らせるものではない」と悲嘆に暮れている。

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