「セルフレジにキレる老人」問題どうする? 模索続く大手企業 要注目の「スローレジ」とは先進事例を紹介(5/6 ページ)

» 2023年06月29日 05時00分 公開
[岩崎剛幸ITmedia]

スローレジに注目

 レジ問題を解決する一つの方法は「レジサポート体制を整える」ことでしょう。

 65歳以上の人なら自由に使えるフルサポート型の高齢者専用レジや、セルフ、セミセルフレジにサポート人員をつける。そして、分からないないことは全てサポートするレジコーナーやサポートデスクを用意するといったことが考えられます。

 利用者の一番のストレスは、使い方が分からず精算業務ができないことです。これをサポートできる体制は当面の間、各店必須となるでしょう。しかしこれは目の前のレジ問題を解決するための手段であり、利用者の満足度を上げるものにはなりません。こうした問題点を解決するだけでなく、課題解決型の取り組みにまでレジを発展させた事例があります。それが「スローレジ」です。

 オランダのスーパーマーケット「Jumbo(ジャンボ)」が始めたサービスです。ジャンボは1979年設立のスーパーマーケットチェーンで、オランダ国内で2番手(約580店舗)の店舗展開をしています。

 同社ではレジスタッフと会話をしたい顧客のために「Kletskassa(チャットレジ)」と呼ばれる特別なレジを19年から設置しています。孤独に感じる高齢者が増えたことが背景にあるそうです。

 試験的に導入したところ非常に反響があったため、全国の他の店舗に拡大。すでに200台以上のチャットレジを展開するまでに広がっています。このレジではレジスタッフが食料品をスキャンして、袋詰めする時間までも「あえて」遅くしているそうです。その間に来店客はスタッフと会話を楽しむことができるようにしているのです。素晴らしい取り組みです(出所:「『孤独』を癒す『スローレジ』が話題、オランダの導入例」プラスデジタル1月18日)。

 同社では以前から無料のコーヒーを持ち込んで座れる「おしゃべりテーブル」をほぼ全店舗に設置していました。高齢者が日常生活の困りごとや連絡先を書き残せる伝言板や、高齢者向けの情報を掲示できるボードを設置して、高齢者と地域社会をつなぐ場作りに取り組んできた歴史があります。それをさらに進めた取り組みがこのスローレジ。既存のレジの中から1台にベテランの店員をおいて、いろいろと手間取る高齢者がレジスタッフとおしゃべりをしながら精算するためのレジとしたのです。

会話を楽しむ、オランダ・ジャンボのチャットレジ(出所:同社公式サイトより)

 同社は数年前から精算のスピードを保証するため「全てのレジに3人以上並んでいて、やむを得ず精算の順番待ちの4人目になってしまった場合、その回のお買い物は無料」というレジポリシーを全店で実施しているそうです。このような全年代の人に利益のあるサービスとの組み合わせでスローレジも受け入れられてきています(出所:「オランダのスーパーでは居心地のいい場所作りがイノベーションを生み出す」AMP2021年1月6日)。

 オランダでは高齢化とともに国民の孤独化が社会問題化されていて、この孤独対策を解消するためのサービスとして開発されたそうです。この点で、レジ問題解決というレベルを超えた取り組みといえます。

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