なぜ西武鉄道は中古を購入するのか 東急と小田急にも利点がある杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)

» 2023年10月14日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

西武鉄道の目的は「運用コストも削減したい」

 ところが、今回は大手私鉄の西武鉄道が、同じ大手私鉄の東急電鉄と小田急電鉄から電車を譲り受ける。西武鉄道はそんなに経営が苦しいのかと思いがちだけれど、コロナ禍で東急も小田急も苦しかった。西武鉄道発案の電車売買は、結果として3社にとって利点のある提案だった。

 歴史を振り返ると、西武鉄道と東急電鉄は伊豆の観光開発で激しく競った間柄だ。西武鉄道と小田急電鉄も「箱根山戦争」と後世に伝わる激しいシェア争いがあった。そして小田急電鉄の背後には東急グループの五島慶太がいた。どちらも戦後の実業家、堤康次郎と五島慶太の戦場だった。そんな関係の3社が手を組む。これだけで経済史研究家はムネアツだろう。もっとも各社ともとっくにわだかまりなく、企画きっぷや高速バスの共同運行などで連携しているわけだが。

 西武鉄道の「増備車両を新造ではなく他社の中古にする」という計画は、22年5月12日に公開された経営資料「2022年3月期 決算実績概況および西武グループ中期経営計画(2021〜2023年度)の進捗」で明らかになった。移動需要減で厳しい状況になった鉄道事業について、売上高向上策として「JR東日本との包括連携」を挙げ、固定費の削減策として「ダイヤの見直し」「保有車両の低減」「駅と運転業務のスマート化」「サステナ車両の導入」を掲げた。

 この時に西武鉄道が定義した「サステナ車両」とは「無塗装車体、VVVFインバーター制御車両等の他社からの譲受車両」だ。実は英字表記の「sustina」は、鉄道車両メーカー「総合車両製作所」のオールステンレス車両の登録商標になっている。

 一方で西武鉄道の「サステナ」は、「無塗装・VVVFインバータ・譲受」の三要素であった。これは導入費用と保守コスト削減のキーワードだ。さびにくい材質の無塗装によって保守メンテナンスを削減し、VVVFインバータで消費電力を削減し、譲受によって新規製造費用を削減する。西武鉄道の見積もりによると、サステナ車両は旧型車に比べて電力使用量は半分になる。

 西武鉄道の「サステナ車両導入」の発覚で、鉄道ファンたちはざわついた。他社のどの車両をいただくのか。すぐに挙がった相手は東急電鉄と東京メトロだ。どちらも副都心線経由でつながっている。西武鉄道が2社で運用している車両を購入し、副都心線経由で西武鉄道の車両基地に運び込み、所有会社の銘板を貼り替えれば譲渡完了である。次に東武鉄道、小田急電鉄、JR東日本も考えられる。軌間(レールの間隔)が同じだから改造の必要がない。京王電鉄、京成電鉄、京急電鉄は軌間が異なるので走行系の改造が必要になる。

 そして9月26日に発表された譲渡車両は、オールステンレス無塗装の「東急電鉄9000系」と鋼製車体白色青帯塗装の「小田急電鉄8000形」だった。9000系は納得できるとして、8000形は無塗装ではない。話が違う。しかしこれは、中古車両譲渡ではありがちな「ちょうどよい出物がなかった」からだ。

西武鉄道の計画の指す「サステナ車両」は、無塗装・VVVFインバータ・譲受の三要素(出典:西武鉄道、2022年3月期 決算実績概況および西武グループ中期経営計画(2021〜2023年度)の進捗

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