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エンゲージメント調査の“賞味期限”は2カ月──旭化成がスピード感重視で現場に戻すワケ【中編】徹底リサーチ! 旭化成の人的資本経営(2/2 ページ)

» 2023年10月26日 07時00分 公開
[奈良和正ITmedia]
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エンゲージメントサーベイ活用のポイント

奈良: KSAの独自性に目が行きがちでしたが、重要なのはリードタイムを短くして、かつ現場で活用できるようにするという点でしょうか。

三橋: それもそうなのですが、その後サーベイをどう活用していくのかがやはりポイントだと思います。

 リードタイムの短縮に関しては、さまざまなサーベイのツールがあるので、上手に活用できれば他社でも実現しやすいと思います。一方で、やっぱり現場でどう展開できるかについては、知恵を絞りました。

photo 旭化成 人財・組織開発室長の三橋明弘氏(写真は同社提供)

奈良: 確かにサーベイ結果の活用、特に現場がサーベイ結果を解釈し、何に活用するのかは、多くの企業が悩むところです。どのように対応されたのでしょうか。

三橋: われわれがKSAを導入する際に、組織開発の考え方を取り入れたことがポイントです。

 組織開発には2つの考え方があります。1つは診断型といって、サーベイを使って見える化し、それに対して専門家がアドバイスをしながら各種施策を実施するというものです。これが診断型の組織開発の特徴です。

 もう1つは、対話型の組織開発です。例えば、マネジャーだけではなくメンバー間でも話し合いましょう、メンバーに主体的に動いてもらうにはどうすればいいか考えましょう、というのが対話型の組織開発です。

 われわれは診断型の要素を持ちつつ、対話型の要素をとても重要視してこの取り組みを行っています。そのため、組織開発、いわゆるメンバーに対応するためのやり方をトレーニングしたりといったような施策を実施するなどしています。

奈良: 一言で診断型から対話型に切り替えると言っても、実際やろうと思うととても難しいですよね。人事考課のように結果にセンシティブになりすぎてしまい、対話ではなく、責任追及のようになってしまう事例も耳にします。そういった点はどのように、進められてきたのでしょうか。

三橋: これはやっぱりマインドセットを持ってもらうことがとても大事です。マネジャーのマインドセットとメンバーのマインドセットです。レポートをそのまま現場に渡してしまうと、現場は低いスコアに目が行きますし、そんなレポートが上から振ってくると「またか」という空気になってしまいますよね。

 そのため、細かく正確な分析ではなく、この数値を土台にみんなで何が起こっているかを話しあうことが重要なんだと、マインドセットを変える努力が一つのポイントです。

 苦労することもあります。われわれはメーカーとして、社内に優秀な技術者を数多く抱えていますが、彼ら、彼女らは数値を見ながら仕事をすることが多いため、こうした調査でも数字に目がいきがちです。例えば「この項目は4.0だが、この項目は3.8で、この0.2のギャップは何を表すか?」といったようにです。

 しかし、各チームおよそ10〜15人と人数が少ないので、1人の回答結果が大きく影響します。そのため、そこまで細かい数値をみるのではなく、マネジャーが自身のチームに抱いている仮説とメンバーの考えを話し合い、チームや組織に何が起きているかを議論しようと呼びかけました。

 このような内容を何度も何度も繰り返しお伝えしています。それでも、まだ従業員の受け止め方にはバラつきがあって、数字が合えばそれが命という人もいれば、チームで話してみると数字の見え方が変わってくると気付く方もいます。この点は今も地道に浸透させようとしています。

奈良: 旭化成グループの規模を考えると、とてつもない数のチームがあることでしょうから、コミュニケーションするだけでも大変な時間と労力がかかりますよね。

三橋: 実は、われわれ組織開発室の人数はそんなに多くなく、このサーベイを実施しているメンバーは2人しかいません。それで1万6000人をカバーしていることになります。

 一方で各領域にHRBPのような人事担当がいて、その人達が現場の相談に乗るような形をとっています。およそ40〜50人いるのですが、HRBPのトレーニングも継続的にやっています。

 われわれ人財組織開発室は、サーベイの主管であり、サーベイの運用、現場のマネジャーやHRBPに対するトレーニングなどを担当して、現場のサポートは領域ごとのHRBPがやるというような役割分担をしています。


 10月27日(金)に公開する後編では、エンゲージメントサーベイ結果をいかに人事施策へ活用しているのかについて触れる。

著者プロフィール

奈良和正 株式会社Works Human Intelligence WHI総研

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2016年にWorks Human Intelligenceの前身であるワークスアプリケーションズ入社後、首都圏を中心に業種業界を問わず100以上の大手企業の人事システム提案を行う。

株式会社Works Human Intelligence

大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートの他、HR 関連サービスの提供を行う。COMPANYは、人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメント等人事にまつわる業務領域を広くカバー。約1,200法人グループへの導入実績を持つ。

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