「世界2位の汚染産業」の汚名返上 アパレル業界救う「水なし」デジタルプリント(2/3 ページ)

» 2023年11月13日 16時58分 公開
[産経新聞]
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水の消費量0.02リットル

 デジタル捺染でも使うインクの種類によって水の消費量は大きく変わり、ほとんど水を使わないが用途に限りがある「顔料インク」と、一定量の水を使うがあらゆる布に使える「染料インク」がある。それぞれ一長一短があるが、日本企業の研鑽(けんさん)でこの常識が打ち破られつつある。

 京セラは、水をほとんど使用しない顔料インクに特化したデジタル捺染機「FOREARTH(フォレアス)」を発表した。顔料インクは水の消費が非常に少なく、繊細な印刷が可能で耐光性に優れるなどの利点がある。ただ、印刷した部分が固くなるためTシャツなどの限定した用途以外に使いづらく、あまり普及してこなかった。

 京セラは独自開発の顔料インクに特殊な前後処理液を使用することで、やわらかく染料インクとほぼ変わらない風合いに仕上げることに成功。捺染機1台で綿や絹の天然繊維や、ポリエステルなどの合成繊維までさまざまな生地に印刷できるため、生産効率も向上するという。

 顔料インクを多種多様な服に使えるようになることで大きく変わるのが水の使用量だ。従来の捺染では布地に図柄をプリントする「捺染」、色を定着させる「スチーム」、余分な染料を洗い落とす「洗浄」などの工程で大量の水を使う。生地1キロに印刷する際に使用する水は約150リットルに上る。これが顔料インクを使うフォレアスだとわずか0.02リットルに抑えられる。生地を送り出すベルトに付着する糸くずなどを洗い流すために少量の水を使うのみで、印刷の工程では水が不要になる。

 大量の水を使わなくなると、捺染機の設置場所の制約がなくなるメリットもある。排水を流すために川沿いに工場をつくらなくてよく、洗浄の工程などがなくなることでラインの長さも約100メートルから10メートルまで短くできる。アパレルメーカーが集まる都市部に設置することも可能で、輸送距離が最低限になり、脱炭素への貢献にもつながる。

 京セラIDP事業開発部の谷口昌・副事業部長は「当初は顔料インクというだけで敬遠されるお客さまが多かったが、実際に印刷の品質を見てもらうと『使いたい』という声が増えている」と話す。

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