個人的には、ここにネットやSNSでよく語られる日本人の「悪いクセ」があるのではないかと感じている。それは「自分が苦労してきたんだから他人にも同じ苦労をさせたい症候群」だ。
読んで字の如(ごと)しで、会社や家庭、さらには町内会やPTA、部活動など日本社会のあらゆる組織の中にある「病」である。明らかに無駄で効率の悪いことや、理不尽なしきたりなどを金輪際やめようとすると、どこからともなく「これまでみんなやってきたことだから」というワケの分からない理屈でねじ伏せる力学が働く。ビジネス系の情報サイトやコンサルタントなどのブログで定期的に盛り上がるテーマなので、ビジネスパーソンならば一度は耳にしたことがあるはずだ。人によっては「自分のした苦労は、部下にもさせたい病」などと呼んでいる。
今回のアセロさんの涙の訴えに対する、日本人のリアクションは、この「自分が苦労していたんだから他人にも同じ苦労をさせたい症候群」の典型的な“症状”だと思う。
大学を卒業したばかりで社会人経験が浅いというのは、逆に言えばこの社会の中の悪しき慣習や理不尽なことに毒されていないので、社会をよりよく変えるための大きな「気付き」になる。
実際、本件について報じた米ForbesのJack Kelly記者は、このような問題提起をしている。
『オフィスでの長時間労働は、効率や効果を向上させない。誰もが経験したことがあるだろう。流れに乗って仕事をこなしていると、次々と邪魔が入る。元の状態に戻るのは難しい。このような日々を繰り返すのは時間とエネルギーの膨大な浪費だ』
『人にはそれぞれのバイオリズムがある。9時から17時と決めて働くのではなく、個人の生産性のピークに合わせて従業員の勤務時間を調整する方が、企業にとって理に適っているのではないか』(Forbes japan 11月6日)
しかし、日本ではこういう意見は少ない。しかも、ネットやSNSに意見を書き込むような人の多くは、先ほど紹介したように「甘えるな」という感じで否定的だ。自分の仕事がいかに長時間労働で、ハードで苦しい思いをしているのかを切々と訴えて、米国のZ世代女性に対して「だからあなたもがんばりなさい」と言わんばかりの人もかなりいるのだ。
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