「9時〜17時勤務を嫌がる米国人女性」に喝! サラリーマンが患う“症候群”とはスピン経済の歩き方(3/5 ページ)

» 2023年11月21日 11時07分 公開
[窪田順生ITmedia]

パワハラ臭が漂う社会

 国も労働文化も違う。仕事によって事情も異なる。にもかかわらず、「9時から17時まで働くのは人として当然」という自分たちの価値観こそが正義だと押し付けていく。これは誰がどうみても、「自分が苦労していたんだから他人にも同じ苦労をさせたい症候群」ではないか。

 さて、そこで次に気になるのは、なぜ日本社会でこのようなパワハラ臭の漂う文化が広まっているのかということだ。まず大きいのは「教育」だろう。

 日本人は小学校や中学校という義務教育の中で「我慢」や「忍耐」を学ぶ。みんなのためには自分を殺すことを徹底させて、痛みや苦しみを経験することで人として成長して、強い大人になると考えられる。その代表がいまだに教育現場や部活動にある体罰だ。

義務教育の中で「我慢」や「忍耐」を学ぶ(出典:ゲッティイメージズ)

 京都大学の岩井八郎教授の『経験の連鎖ーJGSS2000/2001による「体罰」に対する意識の分析ー』という論文には、以下のような興味深い事実が確認されている。

 『「暴力を受けた経験」がある者ほど「体罰」に賛成するという傾向があった。「暴力を受けた経験」がある者が「体罰」に反対するという側面は見られなかった。この傾向は、重回帰分析によって複数の説明変数の効果を検討した場合にも、統計的に有意な傾向であった。本稿の分析を通して、「暴力を受けた経験」がある者が「体罰」を肯定する点が確認された』

 この「暴力」「体罰」という言葉を「パワハラ」や「長時間労働」に置き換えてみていただきたい。皆さんの職場にもいる「パワハラ上司」が頭に浮かぶはずだ。

 こういう人は得てして、「オレが新人のころは」といかに自分が若いときにひどいパワハラや過重労働を強いられてきたかを「武勇伝」のように誇らしげに語るものだ。「あの苦労があったから今の自分がある」と自負があるので、「よかれ」と思ってかつて自分が受けた“教育的パワハラ”を無意識に再現してしまうのだ。

 実際、暴力やパワハラは、被害者が成長して加害者になる、という形で連鎖する。

 有名なところでは、五輪代表の期待がかかる新体操選手のコーチが平手打ちなどの体罰をしていたことだ。実はこの人自身、現役の選手時代に体罰指導を受けていた。「言っても分からないことは体で分からせる」という指導で、技術を身につけたのである。謝罪会見で「暴力は指導の一環か?」と問われた際に、コーチは「そういう認識を持っていた」と真っ直ぐ前を向いて語っていた。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.