今年の漢字は「税」だが“本当の増税ラッシュ”は来年から 企業が取るべき対策とは?古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2023年12月15日 10時30分 公開
[古田拓也ITmedia]
前のページへ 1|2       

増税は2024年以降が本番

 今年の漢字とは裏腹に、23年に実際に行われた顕著な増税は、自賠責保険料の賦課金の引き上げと、10月からのインボイス制度導入にとどまる。

 一方で、24年以降は増税ラッシュだ。法人税の付加税率を4.5〜5%程度引き上げる予定のほか、たばこ税や所得税の増税についても、段階的に実施される見込みだ。

 また同年内には、社会保障関連の制度後退に伴う実質的な増税も複数控えており、後期高齢者医療保険の保険料上限が73万円に引き上げられ、25年には80万円にさらに引き上げられる予定だ。また、一定の所得がある高齢者の介護保険自己負担も1割から2割に引き上げられる。

 以降も増税計画は続く。結婚・子育て資金の一括贈与特例の廃止、相続税の生前贈与加算期間の3年から7年への延長などが予定されており、増税・社会保険料の引き上げとセットで税金優遇施策の廃止・大幅改悪が控えている。

企業はどのような対策を取るべきか

 企業が今後影響を被る可能性の高い増税項目は、法人税と社会保険料の増加に集約されるだろう。これらはいずれも企業の人件費負担を増加させ、賃金上昇の余地を減少させる可能性がある。特に中小企業では、社会保険料の増加が賃金上昇の抑制をもたらす。これは岸田政権下で推し進める賃上げ要請の政策と真逆の姿勢であり、早急な対策が求められる。

 向こう1年という短い期間で賃上げの要請と企業の持続可能性を強化する上で費用対効果が高いものといえば、生成AIの活用があるだろう。賃上げの圧力に対応するために、企業は新規の従業員を採用するよりも、今の従業員をスキルアップさせ、生産性の向上に注力することが効果的だ。

 SheepDogの調査によれば、30代男性正社員の52%が、1日のうち2時間以上を単純作業に充てているという。1日の所定労働時間が8時間とすると、従業員にかけるコストの4分の1が、専門性や独創性が必要でなく、AIテクノロジーなどで代用が効くタスクに使われていることになる。

 実際、日経新聞の報道によれば、三菱UFJ銀行は生成AIで月22万時間の労働時間が削減されると試算するなど、生成AIの導入によって生産性の向上と人手不足を短期間で成し遂げる方向に舵を切った企業や地方自治体も少なくない。

 「AIの登場で仕事が奪われる」というフレーズを近年ではさらによく耳にするようになったが、解雇規制の厳しい日本においては「AIのおかげで不要になった従業員をクビにする」という形で仕事が奪われるケースは少ない。むしろ日本においては「本来は就職できるはずだった人材がAIによる生産性向上によって就職できなくなる」という形で仕事が知らず知らずのうちに減っていくという方が実態に即しているといえるだろう。

 従って解雇規制も厳しい中で、企業が増税と賃上げを早期に乗り切るためには、生成AIなどのツールを導入し、従業員がそれを使いこなし、稼げる人材へと育成していくことが重要な要素になり得る。

 企業の人材育成に関しては積極的に助成金を交付しており、厚生労働省の人材開発支援助成金では最大75%、非正規雇用者に対してはキャリアアップ助成金をはじめとしてさまざまな助成金・補助金を提供している。増税・増税と言われて久しいが、単に増税された分を収めるだけでなく、納税するのであれば、同時に助成金を活用することで相対的な企業の負担を減らし、自社の従業員を強化して生産性を高め、厳しい時代を乗り切る胆力が求められてくるだろう。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.