“クレイジー”な日本の避難所を救う 「ムービングハウス」とは何かスピン経済の歩き方(1/5 ページ)

» 2024年01月10日 09時54分 公開
[窪田順生ITmedia]

 世界有数の「地震大国」というわりに、なぜこの分野はいつまでも進歩しないのか。

 1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」による被災者の多くが、いまだ体育館に身を寄せて、冷たい床にマットを敷いて雑魚寝をするような形で過ごしていることだ。

「体育館で雑魚寝」スタイルが続く被災地(画像はイメージ)

外国人から「クレイジー」と絶句される日本の避難所

 これは続発する地震で恐怖や不安のどん底に追いやられて、体やメンタルがボロボロになっている人々が過ごすにはあまりに過酷な環境だ。実際、避難所に身を寄せたことで「2次被害」ともいう経験をしている人が少なくない。

『地震後に近くの学校に避難した自営業の50代男性は「被災者で混み合い玄関で寝るしかなかった」と話す。一夜を明かした後は帰宅して発電機と備蓄していた水や食料でしのいでいる。「余震は怖いが、人の多い避難所では気持ちが落ち着かない」』(日本経済新聞 1月7日)

 気持ちが落ち着かないどころか最悪、命まで奪われてしまう。石川県が1月9日に発表したところによれば、珠洲市内で避難生活に伴う体調悪化などで亡くなる「災害関連死」が6人発生しているという。ただ、このような悲劇は起こるべくして起きている。

 実は以前より日本の避難所は、先進国の中でもかなり劣悪な環境だという指摘が多い。避難所の環境改善を訴えている新潟大学大学院 医歯学総合研究科 特任教授の榛沢和彦氏は、過去のインタビュー記事『「体育館を避難所にする先進国なんて存在しない」災害大国・日本の被災者ケアが劣悪である根本原因』(プレジデントオンライン 2022年3月10日)の中でこのように述べている。

『3.11の避難所を撮影した写真をアメリカやヨーロッパの支援者に見せたところ「クレイジー……」と絶句された経験があります』

 東日本大震災の震災関連死は令和5年3月31日時点で3794人だが、その原因の1つに「体育館で雑魚寝」というクレイジーな日本の避難所を挙げる専門家もいる。

 もちろん、このような厳しい指摘を受けて、「体育館の雑魚寝」を少しでも快適にしようという取り組みが進んでいる。今回も一部の体育館では、プライバシーを守るためのテントや段ボールベッドが設置されている。また、輪島市の避難所となっている輪島中学校の体育館には、名古屋工業大が開発し、断熱性などに優れた段ボール製の簡易住宅「インスタントハウス」が設営されたという。

 ただ、いくらテントやついたてをしたところで、「体育館の雑魚寝」という事実は変わりがない。日本の避難所の“クレイジー”さが劇的に改善されるわけではないのだ。

       1|2|3|4|5 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.