2023年末、大阪南部で100年近くにわたって路線バス事業を営んできた「金剛バス」(金剛自動車)がバス事業から撤退し、会社そのものも廃業したことが大きな話題となった。
同社は大阪への通勤圏、かつ鉄道空白地帯に存在し、全15路線に1日300便近くのバスを運行していた。年間利用者はおよそ110万人にも上っており、決して過疎化の進行によって廃業したわけではない。
同社廃業の直接的な理由は、バス路線の維持さえ困難となるレベルの「運転手不足」によるものだったのだ。コロナ禍での利用者減少と業績悪化、コロナ禍からの回復に伴う他社の観光バス運転手求人増加によって、より好条件の会社間でバス運転手が奪い合いとなったことなどが重なった。同社でバス路線を維持するために必要な運転手数は30人とされているところ、廃業直前にはわずか17人しか在籍していなかったという。
業界団体「日本バス協会」によると、バス運転手不足は2023年度で1万人、2030年度には3万6000人に達する見通しだ。また帝国データバンク調査によると、すでに運転手不足によって全国各地で路線の廃止や減便が相次いでおり、2023年だけでも全国のバス会社の8割で何らかの減便や路線廃止が実施されたという。
これほどまでの人手不足に加えて、バス会社各社には4月からの時間外労働上限規制が加わる。運転手の年間労働時間の上限が3300時間に引き下げられるほか、退勤から次の出勤までの休息時間は、現在より長い11時間を確保することが求められるのだ。
「利用者減少」「運転手不足」「2024年問題」が同時に訪れる、いわば三重苦のような状況に、バス会社としてはいかに対抗すべきなのか。いくつかの事例をみていきたい。
愛媛県松山市に本社を置く伊予鉄グループで路線バス事業を営む「伊予鉄バス」では、運転手を含む全ての従業員を対象に選択制で「週休3日制」を導入。公共交通機関を運行する会社が導入するのは全国的にも珍しく、まずは介護や育児といった事情がある人を対象に申請を受け付けた上で、運行に影響が出ないかなどを検討して制度適用者を判断するという。
適用者は休みが週1日増える一方、労働時間が減る分は給与も下がることになるが、柔軟な働き方を認めることで採用力の強化や離職の防止につなげたい狙いがある。
また同社では2020年より、路線バス運転手を対象に新たな「短時間勤務制度」を導入している。従前バス運転手は終日乗務することが基本であったが、「午前5時〜午前11時の間で3〜6時間」「午後5時〜午後11時の間で3〜6時間」といった形で、勤務時間の一部だけ運転業務に充てられるようにした。
それにより、例えば乗客の多い朝の通勤時間帯だけ路線バスに乗務し、それ以外は書類作成などの事務作業を担当するような勤務形態が実現。結果として一日中バスを運転するよりも早く帰宅できるようになり、家族と過ごす時間が増えたり、プライベートの時間を有効活用できたり、身体の負担が減ったりといった効果につながっているという。
短時間勤務は週休3日とも併用可能であり、これらの多様な働き方を整備することにより、運転手の離職防止や、新たな採用につなげようとしている。
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