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古くて新しい「ROIC経営」 再注目の背景に、日本企業への“外圧”ROIC経営が企業を変える(2/3 ページ)

» 2024年04月05日 08時30分 公開

「事業売却の有無」と「PBR」には強い相関がある

 実際、事業の選択の集中、中でも売却経験の有無がPBRの高低と強い相関があることが、アビームコンサルティングの23年11月に行った「進化するROIC経営の実態調査」(以下、ROIC経営調査)から分かっている。

 23年11月時点で日本企業の平均PBRは1.3であったが、PBR1.3以上の企業と1.3未満の企業で比較をしたところ、事業撤退の意思決定に至ったことがある企業の割合は、PBR1.3以上が28.3%だったのに対し、PBR1.3未満が11.3%と、その割合に倍以上の開きが出た。

 PBRの高低は、その企業が属する業界が伸びているのかどうかが大きな要因ではあるが、この事業売却の有無、すなわち投資家が求めている事業の選択と集中にしっかりと対応をしているかどうかもPBRに大きな影響を及ぼすのである。

事業の選択と集中に対応しているかどうかがPBRに影響を及ぼす

事業売却を推進している企業はROICを見ている

 事業売却を本気で検討する企業にとって、ROICを事業別に算出することは必然であることもROIC経営調査の結果から見えてきている。PBRが1.3以上と以下の区分と、撤退経験の有無でセグメント分けをしたところ、A企業(高PBRで撤退あり)は事業別に連結ROICを算出している比率が66%以上あった一方で、D企業(低PBRで撤退なし)では、24%でしかなかった。また、B企業(高PBRで撤退なし)であっても、43%でしかなかった。

事業売却を本気で検討する企業はROICを事業別に算出している

 実際にROICを経営指標として活用し、かつ事業売却も積極的に行っていると考えられる企業として、資生堂、花王、味の素、村田製作所、オムロンなどが挙げられる。

 各社はROICを管理指標として掲げているが、同時に、資生堂は21年のパーソナル事業の売却、花王は17年の製油会社とセラミック事業の売却、味の素は20年の包装材料事業会社の売却、村田製作所は17年の電源事業と、19年のスーパーキャパシタ生産ラインの売却、オムロンは19年車載部品事業の売却を実施しており、ROICを活用しつつ売却を推進しているのだ。

花王はなぜ「EVAからROICへ」と指標を見直したのか

 花王は、EVA(経済的付加価値)を全社指標として活用してきたが、23年にROICを経営指標に活用することを表明した。理由として「EVAでは事業の総和でしか判断できず、収益性が低い事業があっても見過ごされていた。これがうまくいかなくなった原因」「EVAは『絶対値』しか見えないため、売上高規模が違う他社との比較がしにくい。業績が好調な時は問題視されなかったが、苦境に直面する今、収益性低下の原因が明確にならないという欠点が浮き彫りになった」(いずれも出典は23年9月東洋経済オンライン)とのことである。

 ROICは率での指標であるため、他社との比較、他の事業との比較、資本コストの比較がしやすい指標である。「撤退」という難しい意思決定を下すにあたっては、比較が出来ることは意思決定を促すメリットがあるのだと考えられる。もちろん、率指標は縮小均衡を引き起こす可能性があるため、ROICを指標としている企業は、同時に、市場成長率などの成長性指標や、市場占有率などの外部指標と共に見て行くことも大事なポイントである。

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