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古くて新しい「ROIC経営」 再注目の背景に、日本企業への“外圧”ROIC経営が企業を変える(3/3 ページ)

» 2024年04月05日 08時30分 公開
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日本企業特有の経営文化とROIC

 最後に、ここまでの話をもとに、経営者や投資家の方々と議論した際に出てきた話をいくつか紹介する。キーワードは「成長機会と内部留保」「縦割り組織」「投資家と経営と現場」の3つである。いずれも指標だけの話でなく、日本企業が抱える課題が浮かび上がる。

成長機会と内部留保

 日本企業は内部留保を厚めに持っている企業が多い。新たな投資を企てるも、自社の強みが生きそうな領域は成長機会が限定的であるという企業が多くある。特に日本市場を中心に考えると、人口が減少する中、成長機会は限定的になりがちである。内部留保が過剰となればROICが低下する原因になるし、成長の芽が少なければPER(株価収益率、利益と比較した株価の高さ)が低くなり、PBRはさらに低くなる。

 一方で、過去の歴史やさまざまなステークホルダーを考えると事業の組み替えを行うことは容易ではないし、次に狙う成長市場が既存の事業領域から遠い領域となるとリスクも高い。よって、このままだとROICもPERも下がりPBRが下がるということは理解しつつも、「分かっちゃいるけど変えられない」という問題を抱える企業は多い。

縦割り組織

 「分かっちゃいるけど変えられない」理由の一つが縦割り組織にある。コーポレートの経営企画部門が主導で全社にROICを導入するも、事業部側はやらされ感で指標を導入している企業は案外多い。結果、現場のKPIとROICは連動せず、PDCAは回らない。さらには、海外現法ではそもそもKPIの定義が本社と異なっているということまである。

 ROICを高めるには、全体最適の視点が大事である。どこにインパクトがあるのか、はたまたコスト削減のために大量生産すると逆に在庫増や値引きなどのしわ寄せが起こらないか、会社全体をみた意思決定が必要となるからである。全体最適の実現には、組織をまたいだ巻き込み、各組織のトップが自部門の1つ上、2つ上の視点を持つというリーダーシップが大事になる。逆に、ROICと現場を結び付ける活動がリーダーシップ育成に貢献するという面もある。縦割り組織を打開するためにも、リーダーシップ育成という長い時間軸での変革が必要なのである。

投資家と経営と現場

 前述したように投資家と企業側ではその意識ギャップは大きい。最近、日本では「人的資本経営」という言葉が使われるが、米国では逆に、Human Capital ManagementよりもPeople & Cultureという言葉が使われつつある。これは投資家視点が欠けている日本、現場視点が欠けている米国のそれぞれの課題感の表れなのだろう。

 経営の仕事とは投資家と現場という矛盾のある存在を結び付け、方向づけるものである。ROICの導入が単にコーポレートのために現場が苦労するだけのものというのでなく、現場にとってのメリット、投資家にとってのメリットを統合的に経営が深く考えるきっかけにもなっていくであろう。

ROICが再注目される理由

 外圧により日本企業は、資本効率性を高めることが求められている。その一方で、企業にとって資本効率性を高めることは、人口が減り、成長機会が限られる日本市場では、外圧の有無に限らず必要なことであるともいえる。成長機会が限られる市場では、より資本効率性の高さが求められるからである。

 資本効率を高めるためにも日本企業が抱える根本的な課題を見直す必要が出ているのも事実である。ROICという比較しやすいツールを用いつつ、この日本企業の根本的課題に向き合い変革をしていくこと、これが今多くの日本企業に突き付けられている現実であり、ROICが再注目される理由なのではないだろうか。

 なお、この「求められるPBR向上、ROIC経営で企業が変わる(仮)」では、PBRを高める道筋(次回)、高PBR実現に向けて(次々回)についても触れていく予定である。

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